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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百六話 掣肘
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“やらせ”だと言うのかね、国防委員長」
「いや、そうは言いません。実際に被害は出ているのでしょう。しかし貴族連合軍とボルテック自治領主が組んでいる可能性は有る。議長、私はそう考えていますよ」
「……」
サンフォードは不満そうな表情だ。馬鹿な奴、フェザーンが味方だと思っているのか? お前はフェザーンの駒の一つでしかないのだ。もう直ぐそれが分かるだろう。
「我々に助けてもらってもフェザーンにとってはメリットは有りません。貴族連合軍に痛めつけられ我々からは恩を着せられ報酬を毟られるだけです。フェザーンの政治的な地位は低下するだけですな」
トリューニヒトの言葉に何人かが頷いた。もちろんその何人かにはサンフォードとバラースは入っていない。
「しかし貴族連合軍と組んで同盟軍を叩ければどうか? 当然ですが貴族連合軍からは感謝される。特にヴァレンシュタイン中将を戦場で殺す事が出来れば帝国内ではその武勲は空前絶後の評価を受けるでしょう。大きな恩を売れます。それに貴族連合軍の力が強くなれば政府の力は相対的に弱体化する。当然だが帝国での改革は失敗、いや廃止されるでしょう」
「……」
彼方此方で唸り声が起こった。顔を寄せ合って囁き合っている人間も居る。反論は出ない、否定出来ないのだ。
「そうなれば帝国は政府、貴族、平民の間で緊張が高まるはずです。場合によっては内乱、革命という事も有り得る。そして同盟は敗戦により政治的、軍事的に酷い混乱が生じるはずです。帝国も同盟も積極的な軍事行動を執る事は到底無理でしょう。フェザーンの、いや地球教の一人勝ちです」
トリューニヒトが声を上げて笑った。明らかに嘲笑と分かる笑い声だ。サンフォード、バラースの顔が歪む。いや、二人だけじゃない、他のメンバーも表情が強張っている。
「トリューニヒト国防委員長の言う通りフェザーン侵攻は危険だと思う。同盟領内での迎撃という基本方針を守るべきだ、変更すべきではない」
私の言葉に皆が同意の声を上げた。
「サンフォード議長、宜しいですな?」
トリューニヒトが問い掛けるとサンフォードも渋々頷いた。
「それと先日、議長はヴァレンシュタイン中将に直接連絡をしたと聞いていますが」
「……」
皆の視線がサンフォードに向かった。おそらく通信の内容も想像出来た筈だ。サンフォードが気まずそうな表情をしている。
「中将が困惑していました。議長閣下が自分に何をさせたいのかがさっぱり分からないと。フェザーンに攻め込ませようとなさったのですか?」
「そのようなことは無い。今どのあたりに居るのかと気になっただけだ」
誰も信じないだろうな。だがトリューニヒトは頷いた。
「なるほど、そうでしたか。軍はランテマリオ星域で貴族連合軍を待ち受けています。御心配には及びません」
「……」
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