暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
幕間+アリッサ:妖精の慰み ※エロ注意
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ました。お荷物は御者が持ちますので座席に残したままでいいです」
「ここがそうか。王族が使うという割には小さいが....まぁ、静養地か」

 一人納得するアリッサの前に小ぶりなロッジが建っていた。絹糸のような落ち着いた白の塗装と地味な茶色の屋根。派手な装いを嫌うような姿は、王国で誰よりも豪奢を極める資格がある一族が住まうものとは思えなかった。
 御者に荷物運びを任せて、二人はロッジの寝室へと上がる。樫製の立派な衣装箪笥やキングサイズの白い天蓋付きのベッドがあるあたり、やはりここは王族の別荘なのだと得心する。穏やかな春風に吹かれながら昼寝するのはさぞ心地いいものとなるだろう。
 だがベッドに無造作に置かれた特大の人形を見てアリッサは顔を引き攣らせた。人形の顔立ちはどこか慧卓に似せられていた。ぷにぷにとその憎たらしき頬を突くと、やけにリアルな感触ーー素材の無駄遣いだーーが返ってくる。

「ミルカ、これは一体?」
「寂しくならないようにと気を利かせました。結婚詐欺でしょっ引いた職人の蔵から見付けたものを持って来たんです。暇を持て余さないように、適度に遊んでやって下さい」
「やけに出来がいいな。目元などそっくりだ」
「その職には写実主義者で、リアルな風合いに拘るそうです。けどあいつはもう少し不細工でしたよ。憎たらしいからって乱暴にしてはいけませんけど、どうしても気に入らないっていうのなら、どうぞ」
「....なんだそれは」
「銀のフォーク。こう、柄の方でそいつの臍をずぶりと」
「抜けなくなったら大変だからいらん」
「では蝋燭などいかがでしょうか」
「ああ、それは便利だ。ご厚情に痛み入るよ....『コレ』には使わないけどな」

 抗議するかのように可愛らしくミルカの右頬が膨らむも、アリッサは取り合わない。むんずとばかりに人形の頭を掴み、「ほんと、妙にムカつく顔だな」とベッドの端っこに投げ捨てた。人形は腕をばたりといわせながら一回転し、虚ろな目玉を無粋な騎士に向けながらベッドから力無く落下する。
 
 こうしてアリッサの静養生活が始まった。必要な時は使用人がきて清掃・料理などを行ってくれるが、それ以外の時は基本的に一人きりだ。昼間は生命の羽ばたきや新緑の美しさを愉しみ、夜はキリギリスの響きを堪能する事が出来る。季節的にも曇天とは縁があまりないためか空にはほとんど雲がかからない。悪天候といってもにわか雨程度くらいである。静養中はずっと気候に恵まれるのではないかと思われた。
 基本的に此処でアリッサがやる事と言えば、『特になにも無い』。腕が鈍らぬよう剣の素振りと軽い稽古をするくらいで、後は書斎にある本を読んだり、ウッドデッキに座って安らかな風に目を閉じたりする程度であった。「折角ここまで来たのだから散策するなり、景色を楽しむなりすればい
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