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王道を走れば:幻想にて
幕間+アリッサ:妖精の慰み ※エロ注意
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 顔の前に手を掲げる。このようながさつな手に女らしさが残っているとは、自分では思えない。掌には剣ダコが潰れたものが幾つも残っており、手をひっくり返せば鍛錬や実戦の際にできた擦傷や切傷の痕が数多くある。指も男性なみに太いかもしれない。こんな手にもいつか既婚の証を嵌める時が訪れよう。だが似合うとは思えなかった。
 がたがたと馬車の席が揺られた。傾斜を登っているため僅かに後ろのめりの恰好となる。アリッサはそろりと手を下ろす。常の凛々しさは潜められており、王国の冠たる近衛騎士とは思えない無気力さが顔に現れており、心中は言わずもがなである。王都の練兵場であってもこの弛んだ心は躾けられないように感じた。
 
「頭を冷やすか、か」

 真向いの座席に座るコンスル=ナイト、ミルカがちらりと見てくる。「何か」。「独り言だ。気にしないで良い」と横についてある窓を下ろす。きらきらとした新緑の木漏れ日が差しこむ道を馬車は進んでいた。
 王都近郊の平野部を南西へと向かって二十五リーグ(約百四十キロ)ほど進むと幅広い清涼な川があり、岩場を避けながら上流へと進むと小高い山が見えてくる。馬車はそこに作られた小さな林道を歩み、だんだんと起伏を乗り越えていく。オレンジの羽根をした蝶や菜の花のまわりを飛ぶ蜜蜂の傍に、まっすぐな轍が走っていった。
 王都にほど近い所にあるのに人の気配とまったく遭遇しないのは、ここが王家によって管轄された静養地であるからだ。見えないところには王家直属の警備兵の詰所があり、そこを拠点にこの秘境のごとき静謐で美しき自然を守り抜いているのだろう。
 アリッサはふと、ミルカが己に駕籠を差し出しているのに気付く。収穫されたばかりの新鮮な果物が入っていた。

「朝から何も食されていない御様子。果物でもおひとつ」
「そう構うな。私は平気だ。空腹などさほど覚えておらん」
「腹が減っているかどうかではありません。あなたが無事に静養される事を王女が御望みだから、私はここにいるのです。別荘に着いたら離れますが、体調管理くらいは自分で出来るようにーーー」
「分かった分かった。いただくよ」

 赤く熟れた苺を取って口に含む。齧るとつぶつぶとした食感の中に柔らかな甘味があるのが分かり、直後アリッサは目を俄かに開いた。「まだ酸っぱいぞ、これ!」。ミルカは聞かずにマンゴーの黄色い皮を剥いて食し始めた。
 遅めの朝食を堪能しながら、馬車は木漏れ日のアーチを潜っていく。実に穏やかな場所だ。木立が揺れるのに混じって、川のせせらぎの音が風に乗って届いてくる。新鮮な空気を身体で切っていくのが楽しいのか、馬もどこかリラックスした表情である。
 二度の緩やかなカーブを曲がると、御者はくいくいと手綱を引き、馬の足を止めた。目的地に着いたのである。

「さぁ、やっと着き
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