第15話:ラブリー入部
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森島はるかという高スペック新人の奪い合いが、体育会系の部活のみならず文化系のそれらを巻き込んで発生する。まだまだ森島の周囲では色んな事件が絶えないのか、という懸念が次第に強くなっていく。
そんな期待したくない未来を描いている中、森島はじっと俺のほうを見ていた。顎に指を当てて何かを考え事をしているみたいだった。
「ねえ、遠野君」
と、俺は唐突に声を掛けられる。いきなりだったので、生返事を返す。
「あん?」
「水泳部ってどんな活動をしているのかな?」
「…え?」
この発言が元で、俺は更に頭を抱える事態が発生した。
テーパーを失敗した俺は、新人戦を1フリ決勝七位、2フリ決勝8位という散々な結果で終えてしまった。その翌週の始め、我らがクラスの美少女が俺達と同じジャージを着て、顧問の横に立って俺達水泳部の部員の前に現れたのだった。
「え〜、今日からマネージャーとして入部することになった、1年の森島はるかさんだ。」
(…どうしてこうなった)
「森島はるかです!皆さん、よろしくお願いします!」
(え〜っと、色んな部活の見学には連れて行ったはずだけど、何で?)
口々に部員が何か歓喜の声を上げて騒いでいるのが聞こえるが、俺はその内容を耳に入れる精神的な余裕は無かった。俺はこの事態が起こった理由が分からず、頭は混乱し、額に手を当てて悩み続けていた。
水泳部に決めた、なんて発言を俺は聞いていなかった。てっきり、「どこも面白そうだけど大変そう」と原作みたく飽きたり面倒だと感じたりして入部しないと思っていた。ああ、山口先輩になんて報告すればいいんだ、クラスの連中は何を思っているんだろうか…。悩みの種が多くなる一方であった。
「拓君」「たっくん」
「はい…」
「後で、どういうことか説明してもらえないかしら」「あとでどういうことか説明してくれない?」
俺の左と右に並ぶ響と知子に小声で囁かれた。横を向くと、背筋に悪寒が走り、視線が側頭部を貫いているような気がする。
居た堪れなくなった俺は、逃げるように森島の方に視線を向ける。森島は俺と目が合うと笑顔で手を振っている。さらに側頭部を貫く視線の強度が増したような気がする。ここに更なる悩みの種が増えたことを状況が俺に語っていた。
口からは「あはは……」と乾いた笑いしか出てこなかった。そして身体からは嫌な汗が出ていることを衣服の湿りから感じる。
(もう、どうにでもなれ)
と、俺はやり場の無い視線を部室の天井に向け、じっと眺めていた。
(次回へ続く)
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