九幕 湖畔のコントラスト
5幕
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ジュードがすかさず、息を呑んだフェイの手を強く握り、現実に引き戻してくれた。
「パパぁ〜〜〜〜!!」
エルが走るのと同時、その男は桟橋を渡り終えてテラスでエルを迎える準備を万端に整えていた。
ダークスーツ。黒い仮面。黒い髪。どこまでも真っ黒な人。
――ヴィクトル。エルと、フェイの、父親。
フェイが湖に身を投げた日からヴィクトルは欠片も変わらない。当然だ。ここではたったの数ヶ月しか時間が過ぎていないのだから。
10年ものタイムラグがあるのはフェイだけ。父と姉は正しい時間を共有し、フェイは独り時間の海で迷子になってしまっている。
エルがヴィクトルの首に抱きついて泣き出した。〈ミラ〉が死んだ時でさえ泣かなかったエルが、父親に縋って泣いている。
フェイはショックを受け、そして猛省する。姉とて辛くないはずがなかったのに、妹の自分は自分で手一杯で姉を慰めもしなかった。
(それは後でお姉ちゃんに謝ろう。今は、わたしがすべきことを)
フェイはジュードの手を離した。
一歩、また一歩。テラスに――ヴィクトルとエルのテリトリーに踏み込む瞬間、呼吸が停まりそうになって、それでも歩いた。父親の前に、立った。
「あの……わた、わたし、のこと、…分か…分かり、ます…か?」
心臓が打ちすぎてイタイ。指先が痺れる。ぼやけてしか見えないのだから顔を上げればいいのに、勝手に視線がさまよう。
「――ラル――?」
濁っているはずの視界が、キン、とクリアになった。
(こんなに驚いてるパパ、初めて見た……のに。これは、フェイのためじゃなくて、ママのための感情)
父親の翠の隻眼はフェイに合わされたまま見開かれている。
「ちがうよ、パパっ。この子はフェイ。イロイロあって、エルたちが知ってるフェイとはちょっとチガウ感じになっちゃったけど」
「フェイ……? まさか、フェイリオか?」
父の声が険しさに染まる。エルもそれを感じ取ってか不安げになるが、フェイにとってはこの程度は慣れたものだ。
「そう、フェイリオ。フェイリオ・メル・マータ。エルお姉ちゃんの妹で、パパの、娘、の。――ただい、ま、パパ」
(言い切った――!)
第三者から見れば何でもない帰宅の挨拶。しかしフェイにとっては口にするだけで命を削る呪言に等しかった言葉。
ヴィクトルはフェイを見据えたまま答えなかった。
やがてヴィクトルは立ち上がり、左手でエルの肩を抱き寄せた。視線は後ろにいたルドガーらに向かっている。
「娘たちが世話になったようだね。ヴィクトルだ。立ち話も何だ。大したもてなしはできないが、食事でもどうかね」
父の口の端が歪んだのを、フェイは間近で見た。
「ルドガー
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