彼と並び立つモノ
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よし! ではこれより敵陣に奇襲を掛ける! 全軍、声を抑えて突撃しろっ!」
歓喜と狂気に顔を歪めた袁術軍の兵士達は次々と駆け出す。それは得物を見つけた賊の顔と同じであった。
ついに陣に辿り着き、雪崩のように第二の部隊の半数程が陣に突入したその時……彼女達にとっては忌々しい笛の音が鳴り響いた。
甲高い音が夜の静寂を次々と切り裂き、紅いショートヘアの小柄な少女の耳に心地よく響く。警邏を行っている時も、練兵の時も、彼女はこの音を聞くのが好きだった。鳥の鳴き声のようなその音は、燕の名で呼ばれる自分だけが分かるような、特別な何かを伝えてくれているように感じていたから。
満足そうに頷いた少女ははち切れんばかりの笑顔を携えて、
「にゃはは、雛里の言った通りになったのだ! 皆ぁ! 鈴々達もやっと暴れていいのだ!」
元気のいい声を響き渡らせ、それを聞いて次々に周りから歓声が上がり、地に伏せていたモノ達が立ち上がる。この時を待っていた、と言わんばかりに。
「さあ、我ら張飛隊の恐ろしさを見せてやるのだ! 突撃、粉砕、勝利なのだぁー!」
燕人は真っ先に先頭を走り出す。遠くの陣内に向けて。
走る事幾分、黒い波となりて押し寄せるその軍勢は、不愉快な音が鳴った事によって動揺している敵軍の真横へとぶつかった。
先頭を突き進んでいた燕人の跳躍からの蛇矛による一振りは力強く、指示が間に合わずにおろおろと慌てながら立ち竦む敵兵三人を一度に容易く吹き飛ばす。
さらにそのままもう一振り行われ、逆側に吹き飛ばされた兵によって盛大な間が出来る。
煌々と焚かれた篝火はその小さな体躯を橙色に照らしだし、不敵な笑みを携えた少女がそれを行ったのだという事実に袁術軍の兵士達は恐怖に落ちた。
「耳の穴をかっぽじってよーっく聞くのだ! 我が名は張翼徳! 劉玄徳が一の家臣! 燕人とは鈴々の事なのだ! この跳躍に逃げ場無し、逃げられるモノなら逃げてみるのだぁー!」
大きな名乗りは狩る側であったはずの敵兵を狩られる側であると瞬時に意識させ、恐慌状態に陥った彼らは右へ左へとすぐさま逃げ始める。
奇襲を掛けたつもりが奇襲に遭う等、誰が予想出来ようか。しかもここにはいないはずの将が来たという事はどういう事か……彼らはすぐに理解してしまった。
もはや彼らは烏合の衆。例え兵数で勝っていようとも練度の高い二つの部隊に食い切られる生贄でしかない。
勢いをそのままに突撃を行う張飛隊は凄まじいの一言で言い表せるだろう。逃げ惑う敵兵も、向かい来るモノも、全てを貫き、突き抜けていくのだから。
陣の外が最悪の事態となっている中、劉備軍の陣の中で袁術軍の将は一人蒼褪めた顔で固まっていた。指示を出す事も出来ず、戦う事も出来ずに。彼女の心は絶
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