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乱世の確率事象改変
彼と並び立つモノ
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か。何を作るかは雛里に任せていいか?」

 戦場で行うような提案では無かったが、そんな他愛ない話が何よりも彼女の心を休める。
 秋斗が言いたいのは、お互いに張りつめすぎてはいけない、という事。己が部隊のみ、さらには朱里や愛紗もいない戦場は初めてである為、二人はどこか気を張りすぎていたのだ。

「はいっ!」

 満面の笑顔で返事をする雛里も隠された意味に気付いている。

「じゃあそろそろ行こうか。俺達の作る戦場に」

 笑顔を向け合ってから二人は陣内を並んで歩いて行く。直接言い表す事は無くとも無意識の内にお互いを支え合う二人は、確かな絆で結ばれていた。





 夜の闇に蠢く影は黒い波に似ていた。
 昼間の戦闘は余りに短く、四倍の兵力を以ってしたのに被害が大きかったというのは別として、残った兵達の疲労度は僅かなモノ。敵将の挑発によっていきり立った心を誤魔化すには全く足りなく、不平不満はより大きなモノとなっていた。
 侵略する側の軍を率いる将は部下に舐められてはいけない。ましてや、臆病者とまで言われて何もせずにいるなど……万を越える先遣隊を率いるモノとしては相応しくない。
 侵略を行って攻める側だというのに亀のように自陣に留まっている事など出来はしなかった。
 だからこそ、警戒心をより強固に固めた袁術軍は奇襲を仕掛ける事を決めた。
 よもや挑発されたのに引いたその夜、戦を仕掛けるとは思うまい。そんな考えの元に。
 敵陣間近となり遠目でも分かる程に煌々と焚かれた篝火の光を見て、兵の誰しもが油断しているのではと嘲笑っていた。だが、警戒を強めていた将は嫌な予感が頭を過ぎる。

「全軍止まれ。まずは陣の様子をしっかりと調べるべきだ。三人が散開して三方向から調べてこい、見つかるなよ?」

 油断や慢心はもはや無い。奇襲を行うのならば圧倒的な優位で攻撃しなければ意味が無い。兵達からは不満げな視線を向けられるが、彼女にしたらそれよりも優先されるモノが二つあった。
 一つは心の内から発される大きな感情の奔流、あの憎らしい成り上がりの傲慢な将をより確実に殺したいという純粋な殺意。
 もう一つは外から齎された言葉、上司たる張勲に自分ならば黒麒麟を殺すか捕えられるだろうという期待を向けられていた。
 四倍の兵力で攻めたというのにこのままでは降格は確定。なんとしても成果を残さなければならないとの思考に陥り焦っていた。
 しばらくして、偵察に向かわせた兵から報告が行われる。

「敵陣からは炊事の煙があり、門が開かれたままで笑い声さえ聞こえます。確実に油断している事でしょう」

 ほっと一息。彼女の顔は安堵に染まった。
 如何な黒麒麟と言えども油断する事があるのだ、と。それが自身の油断であるとも気付かずに。


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