彼と並び立つモノ
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る程度の戦闘、やっと陣容が整おうかという時分に、彼の口から短い命令が為されて長く、大きな笛の音がいくつも鳴り響き、徐晃隊の全てが迅速に踵を返して走り始めた。負傷兵であろうと全てが、である。ただ、死にかけの徐晃隊員だけは敵兵の最中に突っ込んで行く。
突然の後退、否、退却を始めた軍に敵兵達は呆気にとられた。そしてその隙を見逃す程、秋斗は甘いわけが無く、返り血に身を濡らしたまま段違いな武力から近づけない敵兵達を見やり、月光の馬首を巡らせながら敵将である少女を見据えて最後の楔を袁術軍に打ちこむ。
「怯えが透けて見えるな。もう一度言ってやろう。怯えたなら従え、恐怖したなら従え、そうすれば命は助けてやろう。そうさな、臆病者で無いのなら追ってくるがいい。まあ所詮、力押ししか出来ない愚か者であるのに変わりはないが」
敵兵達の心には既に慢心の文字は無く、恐怖心と警戒心が植え付けられている。未だ圧倒的な兵力を有するが為に臆病者や愚か者では無いと怒りに葛藤する心もあるが、何をしてくるか分からないという警戒、そして格上と相対しているという恐怖が綯い交ぜになり追撃に対しても迷いが生まれる。
少女は戦前のモノも今の言葉も挑発であるという事に漸く気付き、己が失態と敵の強大さに歯軋りをして悔しがるだけで何も指示する事が出来なかった。にやりとバカにした笑いを浮かべて去っていく彼の背を見送る事しか出来なかった。
結果、その部隊は追撃をせず、別の策を行う事を決めるしか無かった。
たった二刻程の戦闘であったが、徐晃隊はその力を敵兵に見せつける事に成功し、思考の限定という成果を得た。
そしてこの盤上は一人の天才軍略家の作り出した展開の一端でしか無いという事を敵は知るはずもない。
追撃も無く、陣に着いた秋斗を出迎えたのは雛里と副長。
副長はすぐさま徐晃隊の兵の残存数確認と次の行動の指示に動いて行った。対して雛里は……力強い瞳で秋斗を見上げて口を開く。
「こちらは万事問題ありません。敵の状態はどうですか?」
「心理的な楔は十分打ちこめた。雛里の読み通りに行くだろう。あと、やっぱり捨て駒の将みたいだ。兵を率いる力が副長にも満たないし対応も粗雑、挑発にも乗りやすいから誰かの副官としても不十分。あれはいらんな」
「そうですか……有力な将なら捕えて使おうと思ったのですが秋斗さんのお眼鏡に敵わないのでしたら予定通りに」
淡々と会話をする二人は将と軍師……では無く王と軍師のよう。王が欲するは人材。先の世の平穏を作り出せる為の刃となり得る程のモノこそ王にとっては必要である。
秋斗の報告を聞いた雛里は残念そうに首を可愛らしく傾げた。徐晃隊の対応力にある程度即時対応をやり返せる程の将ならば一角の人物となれたのに、と。
求めるレベルが高
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