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乱世の確率事象改変
彼と並び立つモノ
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う。
 近づくに連れ、嫌な汗がじわりと少女の手を湿らせていく。軍服のスカートの裾で拭ってから馬を止めると……男の瞳に射抜かれた。
 穏やかな瞳であった。これから戦を行うとは思えない程に。思わず、無意識の内にほっと息をついてしまう程に。

「何故、俺達が治める地に足を運ぶのか」

 問いかける様は堅苦しいモノでありながら日常会話を行っているような声音で、気軽さは彼女の心にまで染み渡る。少女はそのせいで油断した心のまま、

「大陸は疲弊の極みにある。それを救おうと動く事になんの問題があるのか。一人の強大なる王が治めてこそ大陸は救われる。それを為す事が出来るのは袁術様である。従うならば良し、従わぬなら……踏み越えてその地を貰い受けるまでよ」

 最も分かり易い侵略の理論を口にした。
 誰もが自身の掲げる王が全てであると信じている。それに逆らうのならば切り捨てられて当然。
 戦で最も分かり易いその理論を聞いて、秋斗はただ穏やかな瞳でその少女を見つめたまま、

「そうか……夕はやはり抑え切れなかったという事か。どちらも腐っていて、どちらも救いようが無い。対立したのは己が欲からだけ。勿体ないなぁ……夕も、そして明も」

 一人の少女だけでは対抗出来なかったのだろう、と納得する。彼女の情報は入っていた。田豊は幽州に攻め入る戦には参加せず、と。
 独り言を小さく呟いた彼は表情を緩め、しばしの沈黙の後、目を細めながら自身を睨みつける少女を一瞥し、

「クク、なら侵略を開始すると……そう言うんだな?」

 楽しそうな声を紡ぐ事によってその少女を静かに凍りつかせる。

――どうしてこの男は四倍の兵力なのに怖気づかないの? どうしてこんなにも楽しそうなの?

 携えた笑みは優しく穏やかで、まるで平穏な治世の中にいるかのよう。戦場こそが自身の平穏であるかのようなその空気に、彼女は呑まれた。

「お前達は攻めてきた、俺達は守りたい、それだけで十分だ。勝った方が正しい、それが戦だ。言い訳も、相手の心も、大義名分も、何もかもをゴミのように投げ捨てて力付くで従わせる。それでいいんだな?」

 にやりと口を歪めたと同時に、秋斗は長すぎる剣を天に向けて翳す。まだ年若い袁術軍の少女は次に何をしてくるのかと身構えるが、秋斗の表情はバカにしたような見下すモノに変わり、剣先を向けると同時に冷たい言葉が流れ出す。

「袁家に従うモノ、最後まで刃を向けるのならば一兵たりとも生かしてやらん。俺に従うのならば、お前達の望む平穏を与えてやる。怯えたのなら従え、恐怖したのなら従え。なんの事は無い、俺に従えば死なずに済むぞ」

 それは異常な言葉。圧倒的に少数の軍を率いるモノが言う言葉では無い。
 故に袁術軍の兵達は錯覚する。虚勢を張っている、奴らの
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