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マウンドの将
第二章
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第二章

「野球は面白くないとな。ああした野球がいいんだよ」
 彼等は私生活においても仲が良かった。投手畑を歩いてきた人間としてお互いに理解できる部分が多かったのだ。
 そうしてペナントは進んでいった。当初は躓いた横浜だが次第に勝ち星を積み重ねていった。
 もう毎年のことでありこうしたマスコミの提灯報道や勉強不足の解説者の意見にはいい加減食傷気味であるがこの年の優勝候補も例によって巨人であった。根拠は巨大戦力である。
 だが往々にしてその予想は見事に外れる。理由ははっきりしている。彼等が巨大戦力というのはホームランの数だけしか見ていないからである。野球を知らない無知、無学、思慮の浅い者の意見である。
 野球は総合力で見るものである。西武が黄金時代を築いたのもそれによるものである。かっての阪急もそうであった。
 巨人には抑えがいない。守備もお粗末である。その自慢の打線とやらもつながりなど皆無である。走ることもない。しかもコンディションも怠っているから怪我人まで多い。非常に幼稚な野球をしている。指揮官の識見を疑うレベルである。
 こうしたチームが優勝するかと言うとまぐれでしかない。そうしたことも理解出来ない人間が我が国の野球ファンに多い。悲しむべきことである。
 だが横浜の守備は固かった。内野も外野もレフト以外は隙がなかった。抑えにはあの佐々木主浩がいた。そして盗塁こそ少ないが機動力もあった。怪我は権藤が最も嫌ったことであった。彼は怪我人は何の躊躇もなく休ませた。
 次第に横浜は順位をあげていく。ヤクルトは不調であった。巨人は横浜に逆転されそこから坂道を下るように負けていった。所詮はホームランバッターだけでは野球はできないのである。おそらく野球を愛さず冒涜するような愚か者には未来永劫理解出来ないことであろうが。
 かわって中日が追い上げてきた。しかしそれでも横浜の勢いは止められなかった。
 場所は甲子園、大魔神と仇名される佐々木のフォークが唸った。最後のバッター新庄のバットが豪快に空を切った。
「やったな」
 それを見ていた横浜ファンが溜息と共に言った。佐々木がマウンドの上でガッツポーズをする。そこにナインが駆け寄る。横浜は今ここに三十八年振りの優勝を決めたのである。
「そうか、権藤さん勝ったか」 
 それを聞いて我がことのように喜ぶ男がいた。東尾であった。
「うちも早く決めないとな」
 今西武は劣勢にあった。ペナントは日本ハムが優勢であった。ビッグバン打線、驚異的な破壊力を誇るこの打線を背景に日本ハムは首位にいたのである。
 パリーグは混戦していた。しかしここで東尾は自慢の投手陣と機動力をフル活用しだした。
「野球を決めるのは何かわかるか」
 東尾はある時記者の一人に対して問い掛けた。
「何ですか?」 
 彼と
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