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マウンドの将
第十章
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いるがこれは野球そのものへの冒涜に他ならない。残念なことに我が国にはそうした輩を褒め称える人間があまりにも多いが。こうした者は野球ファンでも何でもない。マスコミの提灯記事に踊らされているだけの愚者だ。そうした人間がテレビで喚き散らし他の者に嘲笑われている。自分では得意になっているが他の者にはその浅はかさを侮蔑されその醜い人柄を嫌悪されている。そうしたことにすら気付かないのだ。まさしく愚か者である。どういうわけか世代も共通している。そうした人間が若い者がどうとか言っても何の説得力もない。少なくとも彼等が馬鹿にする若い者は暴力と民主主義を混同したりはしない。
 九回には大差ながら佐々木が出て来た。そしてあっさりと三者凡退で締めくくった。彼の登板は流れを完全に掴む為であったのだろうか。
「勢いだけはつけさせたくはなかったが」
 東尾はその圧倒的な結果を見て呟いた。
「勝ち負けよりも酷いことになったな」
「はい・・・・・・」
 傍らにいたコーチも声のトーンが低かった。そこへ選手達が戻って来た。
「おい、しょげるなよ」
 だが東尾は彼等に対してはあえて大きな声で言った。
「二敗したわけじゃないんだ、横浜には気分を入れ替えていくぞ!」
 しかしその声は何処か空虚であった。誰もが試合の結果に沈み込んでいたのだ。
(まずいな)
 それは東尾が最もよくわかっていた。
(ここまできたら腹でも何でもくくるしかないな)
 彼はある覚悟を決めた。
「やられたらやりかえせ、か」
 権藤は記者達に問われ思わずそう呟いた。
「はい、監督のお言葉ですよね」
 記者達は次の試合の先発について尋ねているのだ。試合の結果のインタビューは既に終わっている。
「ああ、その通りだ」
 権藤はそれに対して答えた。
「そうでなくては勝てるものも勝てない」
 俗に権藤イズムと呼ばれる。それは彼独特の野球哲学であった。
「では次の先発は」
 誰もがそれは予想していた。第三戦で打ち込まれた三浦だと。格から言っても彼しか考えられなかった。
「それはもう決まっているよ」
「おお!」
 記者達の間でどよめきが起こる。予告先発だ。
「川村だ」
「え!?」
 皆それを聞いて一瞬目が点になった。
「川村ですか!?」
 皆驚いて権藤に対して問うた。
「そうだ、何か問題があるか」
「いえ・・・・・・」
 川村丈夫。確かにいい投手である。癖のあるフォームから投げられるカーブとチェンジアップが武器である。だが彼には不安材料もある。

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