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東方攻勢録
第四部
第一話
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っき体を貫いた感覚はしっかりあったし、どう考えても幻覚を見せられていたわけではないはずだ。
 目の前の少女はまっすぐこちらを睨みつけている。その視線に妖怪は動けなくなっていた。
「あれごときで殺せるとでも思ったか? 馬鹿だなお前は」
「ひっ!」
 恐怖に負けた妖怪は逃げだそうと後ろを振り返り駆けだそうとする。しかし急に背後から重い何かがのしかかったかと思うと、妖怪はその場に倒れ身動きができなくなってしまった。
「おいおいさっきの威勢はどうした!」
 妹紅は怖い笑みを浮かべてそう怒鳴りつけると、右手に炎を作り出しちらつかせる。それが何を物語っていたかは、思考が恐怖に呑まれていた妖怪にもわかるようだった。
「ばっ……ばけも――」
「化け物はお互いさまだろ」
 声のトーンを下げてそう言った瞬間、妹紅は妖怪から距離をとりながら相手の体を大きな炎で包みあげる。高音の炎は見る見る妖怪の衣服や皮膚を焦がし、やがて大きな火だるまを作り上げた。
 妖怪はそこらじゅうをのたうちまわりながら、なんとか火を消そうとする。だが妹紅の炎がそう簡単に消えるわけもなく、やがて痛みと遠のく意識に体を奪われ動かなくなってしまった。
「ちっ……やっぱり雑魚だな。ちょっと油断させただけでこうなる」
 妹紅はまた黒焦げになった物体を蹴り飛ばしイライラをはらそうとする。その後いつもならすぐにその場を離れようとする妹紅だが、悲しそうな顔をしながらある人物のもとにむかった。
「……ちっ」
 ピクリとも動かなくなった少女を見て妹紅は軽く舌打ちをした。もう少し早く気付いていれば、彼女を引き寄せて攻撃を避けることができた。だが今考えても仕方がない。妹紅はこのままにしておくのもあれだと考え、彼女の遺体を人のいる里まで持っていこうとする。
 だが彼女の体に手をかけようとした瞬間、妹紅はなぜか手をのばすのをやめてしまった。
「えっ……?」
 妹紅はなぜか彼女の体が一瞬動いたような気がしていた。死後硬直が始まったからだろうか、それともただの錯覚なのかはわからないが、心臓が機能していないことには動くなんてありえないはずだ。
 だが今度は指がはっきりと動き始めていた。もちろん錯覚でも幻覚でもない。完全に意志を持って動かしている。それによく見ると胸にぽっかりと開いていた空洞は、少しずつ肉体を増やし埋まり始めていた。
「……んっ」
ついには彼女の口から声までもが漏れ始めていた。

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