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恋の矢
第一章
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                     恋の矢
「わしは決めたんじゃ」
「諦めたっていうんだな」
「そうなんだな」
「ああ、そうじゃ」
 池山敦史は言う、きっぱりと。
 黒髪を長く伸ばし後ろで束ねている、奥一重の鋭い目は少しだけ垂れ目の感じだ、目は鋭いがそうしたものだ。
 眉は細くきりっとしている。細長い顔で顎の先は丸い。鼻は高く唇はやや厚めで真一文字だ。背は一八〇を超えて引き締まった身体つきをしている。広島生まれなので広島弁である。
「もうあの娘はじゃ」
「諦めてか」
「次の恋に生きるってか」
「土台わしには無理だったんじゃ」
 その丸出しの広島弁での言葉だ。
「あんな娘はな」
「おいおい、告白もしてないぜ」
「それでそう言うのかよ」
「土台無理とかな」
「そう言うのかよ」
「そうじゃ、わしみたいな柄の悪い奴にはのう」
 こう言いながら酒を飲む、皆詰襟姿だが堂々と居酒屋で飲んでいる。煙草だけは手にしていないのが救いであろうか。
「合う娘ちゃうわ」
「まあ清楚可憐な娘だしな」
「如何にもお嬢様って感じだしな」
「実際に華道、茶道、書道の家元の娘さんだしな」
「物凄い大和撫子でな」
「あんな娘今時おるんじゃのう」
 それが不思議といった口調でだ、敦史は日本酒を飲む。あては烏賊の姿煮だ。
「そんな娘とわしはじゃ」
「合わんっていうんか」
「そう言ってか」
「ああ、わしに合う娘を見つけるわ」
 こう居酒屋で仲間達、八条学園高等部空手部の面々と飲みながら言うのだった。
「そうするわ」
「そうか、じゃあな」
「新しい恋頑張れよ」
「一応応援はするからな」
「そうしろよ」
「ああ、それにしても今年のカープは何じゃ」
 今度はこんなことを言う敦史だった、これまでの諦めた顔からあからさまに不機嫌そうな顔になって言うのだった。
「またBクラスかいな」
「それ言うかよ」
「ここでカープかよ」
「わしにとって空手とカープは命なんじゃ」
 だから言うというのだ。
「その命があの様かい」
「カープな、何かな」
「本当にここ二十年ぱっとしないな」
「どうにもな」
 仲間達もカープについてはこう言う。
「最下位には殆どなってないけれどな」
「目立たないチームになったな」
「スター選手出ても阪神に獲られるしな」
「そんなチームになったな」
「寂しいのう」
 しみじみとだ、敦史は言った。
「赤ヘル黄金時代はどうなったんじゃ」
「過去の話だな、もう」
「山本浩二衣笠祥雄の時代はな」
「もうないな」
「終わったよな」
「ほんま寂しいわ」
 敦史は彼が生まれる前のことだがこう言った。
「北別府さんに大野さんにな」
「古いな、おい」
「カープ黄金時代じゃねえか」
「そう
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