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ヒゲの奮闘
第一章
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は暇であった。忙しいのは守っている時だ。そんな雰囲気が今日も甲子園に満ちていた。
「甲子園の神様のたたりちゃうか」
 誰かが言った。
「何でやねん」
「そやけどよ、あの山内ですら打ってへんやろが」
 エースの一人小山正明を放出までして取った大打者山内一弘を指差して言う。
 山内はパリーグ時代大毎の四番だった。ミサイル打線と謳われた強力打線の主軸であり、オールスターでは常に四番を打っていた。だがその彼が阪神に来てからは華々しい活躍をしなかったのだ。
「何てや」
 ファン達はそれが不思議でならなかった。
「あれは世紀のトレードやったんやろ」
「そやったな」
 それには皆頷いた。エースと主砲の交換トレードだ。何事も派手なことが好きな大毎のオーナー永田雅一の宣伝だが阪神もその言葉に乗り気だった。しかし結果は思わしくなかったのだ。少なくとも阪神ファンにとっては。
「こんなんやったら小山放出せんかったらよかったな」
「今更言うてもな」
 阪神ファンのぼやきとたら、ればはこの時から既にあった。
「山内のかわりに他の奴呼んだらよかったんや」
「誰やったらええねん」
「大リーグから一人呼んで来んかい」
「アホ言うな」
 流石にそれは一笑に伏された。
「王か長嶋で我慢せい」
「ほな近鉄の土井か南海の野村呼ぶわ」
「阪急のスペンサーでもええんちゃうか」
「ホンマなあ。他のチームが羨ましいわ」
 とにかく彼等はぼやいた。そこまで阪神打線は打たなかったのだ。マウンドの村山は好投している。だが打線は相変わらず沈黙を続けたままであった。
 ピンチにも異様に強い男であった。何度も得点圏にランナーを置きながらもそれを捻じ伏せる。剛速球とフォークが唸り、相手を寄せ付けない。だがそれは阪神打線も同じであった。
「アホ、御前等何時打つねん!」
 六回なぞは無死一塁二塁でよりによって三番の遠井吾郎が併殺打であった。遠井は一回にも併殺打を打っている。
「吾郎さんよお、あんたも四番打っとったことがあるんやろが!」
 ふがいない遠井の打撃に野次が飛ぶ。
「同じ左でも巨人のあれとはえらい違いや」
 遠井は左投げ左打ちである。王と全く同じなのだ。
「あれ巨人やなくてうちに来とったらなあ」
 実は王は最初阪神のスカウトが接近していた。しかし巨人に奪われたのだ。

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