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「ボクサー だいたいみんなノーモーション
「ボクサー だいたいみんなノーモーション」(1)
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むうちに『声』が出るようになって、会長からダメ出しが出たんだ。タノムは知っている。意識の上には強い『力』があって、それに触れると『力』をもらえる。うまくゆけば大きな人間になる。失敗したら『声』が漏れる。そうすると病気になって弱くなるんだ。それは周りも巻き添えにする。
「あれ、『声』が出ても一〇〇%の善人ならOKらしいっすよ」と、中村ちゃんが言っていた。そんな奴、いるだろうか。イースケ君には言わなかった。「明日のチャンピオンの『声』、俺には聴こえるときがあるんだ」と。さて、明日はどちらに転がるのだろう?


「大丈夫。メシ。美味いメシ」
「イジメに逢わないように、頭下げるのも生き方よ」
「大きいオッパイ! 大きいオッパイ!」
「後でバラして笑おうや」
 どんな、くどき文句? どんな、くどき文句だったんだろう?

「いや、あれだよ。俺とタノムさんタメだよ。よく知ってるよ、タメだよ。俺が十八でジム入って、タノムさん二十歳。今のタノムさん所の会長が、東京の俺らが通ってた会長の甥。タノムさんの所、叩かれてるでしょ? あれ、東京の叔父さんが八百長断ったから。二人とも真面目で弱いの。二人とも突かれてんだ。ん? 叩かれるって何? って。いや、叩かれてるよ。いや、これ以上言わないけど」八百長ボクサーは、「言うこと聞かないと、弱くなる薬とか、メシに混ぜられるんだぜ」と、言いかけて止めた。
「俺に、話 訊きたいの? いいよ。その時の相手、もう引退して名前も忘れられてるから」
「すんなり行くね」と、イースケは思った。これなら『明日のチャンピオン』の試合の前にネットにアップできる。「金だな。いくらか、だな。あと、女だな。誰と寝たかだな」

     ※

「そこから一歩も動けねぇ感じ。何かしなくちゃいけない。何か言わなきゃいけない。そう思うんだけど、動いたら死んじゃうの。そんな感じだよ。殺されるとかじゃないよ。まぁ、つまり、その道しかないんだって。もう、一本道なのよ。その道を行かなければ、もっと酷い茨の道が待ってる。そんな感じよ」八百長ボクサーが言う。
 この人も何か哲学的というか、詩的というか。イースケはこういう人にあからさまな質問をしたら、激怒するんじゃないか? と、警戒している。
「人間、色々厳しい体験をすると奥深くなるんですねぇ。大人だなぁ」とだけ言っておいた。
「どんな、試合だったんですか? 相手すごかったんですか?」
「サンドバックを叩いた事ある? ない? パンチが突き抜けなきゃいいのよ。ボクサーのパンチ、向こうまで、サンドバックの向こうまで突き抜けるのよ、衝撃。それをやらなきゃ相手は倒れない。それだけ。ん? 俺の負け方? 訊きたい?」そういって八百長ボクサーはにっこりした。
 頭の中でその光景が、幾分乾いていてはいたけれど、幻想
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