暁 〜小説投稿サイト〜
「ボクサー だいたいみんなノーモーション
「ボクサー だいたいみんなノーモーション」(1)
[5/31]

[1] [9] 最後 最初
さ。でも、人間は、はっきりした意味に惹きつけられて落ち着くんだな。『好き』とか『嫌い』とか『馬鹿』とかな。自分自身の生きる意味を求めるのもそうだ。俺は『強さ』を選んで他の根を枯らした。でもさ、ひとつの真実は、他人の真実を理解する眼鏡になるんだな。自分が真実に近づく道のりを経験したらさぁ、他人の真実も見えるってもんだぁな。『強さ』手に入れて何がどうなったんだろうな? 『あいつは強い』って、誰も手を出すなって。それとも、単なる『ボクシング馬鹿』じゃねぇか、か。『モテないから、体鍛えてんのか?』うん。自分にまつわる億の意味を捨てて、一つの真実を得られれば、他人の目には億の意味が映るのさ。何せその強さって真実は、またしても億の意味をはらんでいるからな。なかなかいいだろ?」
 タノムさんに「自分の人生にとって、ボクシングってどんな意味を持ってますか?」と質問したらこんなディープな答えが返ってきた。「殴り合いさ。男と男の血生臭いど突き合いさ。でも、男である証明だな」ぐらいでよかったのに。そしたら「それを穢されたら、どう思います?」と、八百長の話を切り出せるのに。
 目の前ではもうもうと煙を上げて肉が焼けている。

「ここの飯は体に悪い! 死ぬ前に喰え!」と、サイン色紙がある。

おい! お前、このヤロー! 
肉が体に悪いって誰が言った! 
お前の身体にも肉があるだろう! 
だったら、お前自身も体に悪いだろ!

  肉喰ってみぃ、美味いから

 プロレスラーの名前と共に壁に刻まれている。

「スポーツって服みたいなもんですよね? 『あの人に着てもらって、初めて完成する』みたいに、『あの人がやった偉業』に支えられている所、あるじゃないですか」
 イースケは『偉業』が、もしヤラセだったら、と訊きたくて、質問を投げてみた。
「いや、スポーツは恋だ。ピタリと重なるんだ」
「あの……、服と人間も恋みたいなもんですよ」
「いや、ボクシングに関しては恋だよ。俺、知ってる。『善人の下半身と、鬼の上半身』これを持っていると、ボクシングと恋に堕ちる」
「いや、だから服みたいなもんですよね?」
「君、押すねぇ」タノムはイースケの頭上を眺めて、「今日のパンチ。割と良かったよ」と言った。「何故、ミット打ちで顔、狙ったの?」という言葉が頭の中に残った。
「身体は鍛えると、その本来の姿に変わる。よく『人が変わった』って言うだろ? あれは本来の姿が出たんだ。生来のボクサーは、鍛えて鍛えて身体を空っぽにすると、ボクシングをまとう事が出来る。ボクサーになる事と、服を着る事が同じものか?」と、タノムは訊いた。
 イースケは『身体を空っぽにして、ボクシングをまとう』という意味が分らなかったが、「いや、あの……、お昼の感覚ですか? あの、ちょっとやった、ミット打ちの感
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ