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「ボクサー だいたいみんなノーモーション
「ボクサー だいたいみんなノーモーション」(1)
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わりに、何の敬いも無い。すべて物はこの空気を壊さないようにある。そのまま、黒人ボクサーとの闘いに入って、何も問題を起こさないまま終わることを想像している。ジムの壁に対戦表が貼ってある。中村ちゃんの相手の名前。その上に(黒人)と、書いてある。

 中村ちゃんが言う。その頭の上に、「お前が負けて、俺たち言いなりかよ」という言葉が降りそうなのを、必死にこらえて言う。
「俺、マンガみたいに強くなること夢見たんですよ。でも、実際なれないじゃないですか。でも、それでも、夢見た、その夢の一部は自分のものじゃないですか。ホントは百万人に一人のエンターテインメントやる人になりたかったんですよ。つまりあの……、学校で一生懸命勉強した百万人に一人、天才学者、天才発明家がいるみたいに。それに自分がなれなくても、『俺、あいつのスゴさ知ってるぜ』って。同じステージで踊る事は恥ずかしい事じゃないって、思えるし、言いたいんですよね。多分夢を見るって、夢みたいな人の一部になるって事なんすよ」
 タノムは携帯を耳にあてて考えていた。「中村ちゃん。キンチョーが途切れたな」この話、すでに負けたのだ。
「中村ちゃん。エンターテインメントって、人間の本質だよ。人間の本質を見て、『こいつは面白い』って、言われる事だよ。人の後追いしている最中はまだまだだよ」そう言ったタノムの頭の中に、中村ちゃんの落胆が染み込んで、その後は黙った。「何か悪い事でも言ったか? もしや、中村ちゃん。負けてもエンタメなんだって、そう聴こえた?」
 中村ちゃんは黙って、「俺、白旗、揚げた?」と、確認している。「揚げてないよな? 夢の一部になるって、宣言したもんな」と、眉をしかめて、腹の奥から力が抜け落ちるのをこらえていた。「ん? 後追いなわけ無いじゃん。俺が夢の一部になるって。それ、後追い?」
「頑張りますよ」と、中村ちゃんが言った。
「あたりめぇだろボケ!」タノムが笑った。「チンポで負けても、根性で負けるか、日本人」
「ああ、チンポと根性。両方根っこですよね」と、中村ちゃんが言う。
どこにも力なんて無かった。どうしようもなく空虚だったから、「明日も絞るから。安心して」と、タノムは断ち切った。その後「サバを食おう」と、つぶやいた。

「跳び箱を越えるような恐怖」中村ちゃんが言った。「そのくらいっすよ」スパーリングをこなす。「最初が一番恐くてさ」パンチの後に顔が引きつる。「その後は、気の利いた台詞を言えるような。そんな男女関係みたいっすよ」もらったパンチが利いた後に顔が固くなる。その事にひどく動揺して「利いてなかったのか?」と言う。「俺のパンチ」一発もまともに入らないこともある。「恐さがあると人間大人になるって言いたいっすね。あのガキども」すべての行為がタノムの頭の上を通り過ぎてゆく。誰もクラッチをつなげなか
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