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「ボクサー だいたいみんなノーモーション
「ボクサー だいたいみんなノーモーション」(1)
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長考した中村ちゃんが言う。
「歴史作れるんすか。カッコいい男こしらえて、何ができるんすか。歴史になるほど大きな山を作るんですか。その山に豊かな森はあるんですか。歴史を見ればみんな、強い奴に嘘と虚構が寄ってきて、知らない間に大きくなって、本人もそれに負けじと大きな態度で、やはり海に沈むのではないですか。それでは歴史の恥ずかしい部分、受け継ぐだけではないですか」
「ん、じゃぁよ」と、豪傑がすかさず言う。「本当の歴史は、海の底のように静かで冷え冷えしてんのかい? それともマグマのように熱いのかい?」
 またもや長考した中村ちゃんが言う。
「お前らよ! ホントの強さとか知らんべ! 心の奥底から湧き出るような、あの強さの源を知らんべ!」
 店の中にある、澱んだ空気が中村ちゃんに吸い込まれ、中村ちゃんの顔が頬白んだ。緊張と興奮が中村ちゃんにすべて吸い込まれて、その、放たれる空気がそれぞれに馴染んだ所で豪傑がこう言う。
「やるかい?」豪傑が拳を握っている。「やれるのかい?」

 タノムはしたたかに打ちのめされている。金属の棒が背中に打ち付けられている。まだ筋肉の厚いところなら「うん、ふぅっ!」程で済んだものの、原付のスロットル回そうとして腕を伸ばせば、脇腹に硬いものが打ち付けられる。痛みが臨界を越えれば、今まで見たことのない意識世界で「はぁぁぁぁ……ぇちょれさんびっ」と、声を漏らす。横をすり抜けてゆく車の、ガラスの向こう。結構な緊張感で走り去るのを見れば、タノムもこの出来事のもたらす凄惨を知る。スロットルを回す。大きめに回したから、ウィリーして、タノムの背中はアスファルトに打ち付けられた。痛む身体から、汚れを吐き出すように「俺はチャンピオンになれた器だぞ! 半端モンは消えてなくなれ!」と叫んだ。人の目など気にならないほど、自意識が飛んでいた。
 暗闇の中。アスファルトの上を滑ってゆく人々。とても静かに。その中でタノム一人が熱く沸騰している。いや、もしかして、ほとんどの人は、その胸の奥に沸騰する何かを抱えているのかもしれない。タノムの熱さは、意識されずに放熱。誰だって、自分の熱さには違和感など感じないのだ。

「折れてるの? 折れてるのかい?」タノムは鏡の前で、背中、脇腹の部分。肋骨を押さえながらつぶやく。「初めてだかんな。折れてるのか?」手をあてている部分、まだ色が変わらぬくらい新鮮。「骨が折れている痛みって、何でしょう? 触っただけで痛いしな」息をしただけで苦しくなる様子がある。タバコに火をつける。すべての痛みを誤魔化すように、少しワルに、投げやりになる。クスクス笑う。それにしてもたたきつけれらる人生だ。自分に何も無いときは、顔の悪さで悪意をたたきつけられ、ボクシングを始めれば、キックボクサーにスネをたたきつけられる。今日は金属バットと、アスファル
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