「ボクサー だいたいみんなノーモーション」(1)
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ャンピオンの顔は可愛くもあり、急所を突く心構えも匂わせている。
「チャンピオンのパンチは強いっすよ。観ててわかりますよ。ケンカに使えますよ。あれ。キックとボクサー。どっちが強いって、愚問っすよ。ようは魂の強さですよ。魂が強いと相手固まりますから」キックはへつらう。
「お前でもびびるか? そう?」豪傑は言う。
「チャンピオンのパンチは大いなる力っすよ」
キックボクサーは、これまで生きてこられたのは「きちんと噛み合う人間」としかケンカをしなかったからだと思う。キックボクサーはタノムのことをぼんやり思い出している。そこに敵がい心は無かった。「あの男、強くはねぇが、やりあいたくはねぇな」明日のチャンピオンを見たキックボクサーは「こいつ噛み合うな。やべぇな」そう思った。「噛み合うってことは、白黒、順位がはっきりつく。大きな人がこいつの背中を押しているから、ここは自分が下位だと装っておけば金運」世の中は、あやふやな所があるから自由があると知っているのだ。キックボクサーは敵がい心を隠してクスクス笑っている。このネタで何人の女が抱けるか想像している。自然と腹は立たない。
「殴り合いってのは、相手をぶちのめすんじゃないんですよ。相手にプライドを与えるんですよ。『お前を倒す為にここまでやったぜ』ですよ。だから全力でトレーニングするんですよ」明日のチャンピオンの男前ぶりがヤクザな男達を温めている。
会長とタノム、中村ちゃんが店に入ってきたところで、キックボクサーは舎弟を連れてボックス席を離れた。会長はなかなかの堂々を装い、タノムはボォッと店を眺める。中村ちゃんは神経が過敏。目がおかしい。
「私、あなたのファンなんすよ」と、女が言った。
「知ってます」と、明日のボクサーが返す。
周りを見渡せば、その言葉に吸い寄せられるように視線が集まっている。それぞれの視線の先には、太ももがあり、胸があり、唇があり股間がある。
キックボクサーは今まで七万回は唱えた台詞を思い出していた。「自分ならいけますよ」そう、この言葉を唱える事で弱さが麻痺するのだ。明日のチャンピオンのファンの女の子を『味見』した。部屋から出てきたキックボクサーは「あんま、色気ないすよ」と言った。ものすごく感じやすいけれど、ものすごく固い殻に包まれて、ほとんどSEXをした実感がなかったから。あの女はいい女なのか? これは一人、女を抱いたと考えていいのか? でもあの手の女の中に入った喜びはあるけど。何だかクールにいきたいな。どうだろう? と、考えている。
仕切りの向こうの豪傑を感じながら、「彼らはもう闘わない。闘わないことでプライドは守られる。まぁつまり、若い時代をタフに生きて、上手いこと引き際を決めて、あるべき椅子に座るのだ」
「タノム君。汁かけて来い。汁。顔とか胸にさ。楽しいから」会長が
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