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「ボクサー だいたいみんなノーモーション
「ボクサー だいたいみんなノーモーション」(1)
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と。「あいつは軽量級のチャンプだろ? デカイ素人に負けるべや」そう簡単に済まされない何かを考えるが、もう8階に着いてしまった。

「左足を軸にして体をクルリと時計回りに。俺、この動きが好きだ。左アッパーを突き上げる時の広背筋。ありがとう。上半身を柔らかくするための鍛えられた下半身。その事を説明すると、輝く君の瞳。潤ってるね。『お前の右フックは当たらねぇ』と言った会長さん。ごめんよ、今晩も打ちますから。フィニッシュブローの手ごたえの無さ。すべての力が相手に伝わった。闇は君に」
 タノムはその『声』を聴いていた。この声に勇気付けられる? 導かれる? それとも脚を引っぱられる? タノムはじっと心を見る。「一部死んでる」そう、心の一部が死んでいるのだ。

 イースケは、明日のチャンピオンを見ながら、「アアッ! あれ、俺が昨日打ったボディーブローだろ? 違う? アアッ! これ俺の右ストレート!」などと言う。本気で言う。お馬鹿さんなのである。「俺の造った記憶。俺の体の造った高次元の記憶! ホーッ!」と、叫ぶ。明日のチャンピオンが劣勢の時、「腕立てパワーで勝つんだよ! 俺の生命エネルギーで突き抜けるよ!」と、腕立て伏せをする。たまにチンチンを勃起させる。相手選手に向かって「昔、ヤッた女。今、お前みながら自慢げに巨根と交わってるぜ」と、言ったりする。そんな風にイースケの試合が終わる。

「チャンピオン! いや、明日のチャンピオン。今夜もノック・アウト。素晴らしいですね」
「LOVE YOURSELF! LOVE YOURSELF! もうすでにチャンピオンです」
「今夜もフィニッシュは右三発。その前のボディーブロー。効きましたね」
「喧嘩とボクシングの狭間で、この世とあの世のはしごを造る。これ俺の仕事」
「多分、今度の相手はいま、リングサイドで見つめていますよ。相手は生粋のボクサーです。どうですか?」
「俺たちはしょうがなく生まれてきたんじゃない。人間は原始生まれたがっていたんじゃ。人間は両足で立ち、手を自由にした。今、自由になった手が地球の常識を離れて宇宙をつかまんとす。俺は産まれる前から闘っていた。この手につかむのはベルトと決まっているのじゃ!」
「やはり明日のチャンピオン次元が違いますね。時計に追われてボクシングをするのではなく、明日のチャンピオンのパンチ、一発一発で時計が動くという感じでしたよ。どうですか?」
「それは何ですか?」
「いやつまり、あの、時間を忘れるという事です」
「うん。みんな、時間なんて憶えてるの?」会場の笑いを誘う。ややあって明日のチャンピオンにスイッチが入った。
「時間3分。その時を完璧に使い切り鍛え上げれば『時、止まる』と言う。身体、意識にこの全宇宙、全次元のエネルギーを吸い込み、一滴も漏らさずコントロール出来
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