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「ボクサー だいたいみんなノーモーション
「ボクサー だいたいみんなノーモーション」(1)
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がうっとおしかったな。「苦しいときは笑え」ムエタイ選手は言われるらしい。その時タノムは笑った。本当に愉快だったのだ。眠りに落ちる前。「左アゴの噛み合わせが悪いので、25%のパワーダウン。これより時速80qの巡航で高速を抜ける」と、誰かが言った。

     ※

「だったらお前。そいつが本物のボクサーだったって確証あるのか?」
「いや、だって。本物だったら追われますよ、やられますよ?」
「ボクサーって確証なかったら、この画も偽者のエンターテインメントだって言えるだろ!」
「いや、だから。本物だったら噂 広まって、これ以降取材、いろんな所で難しくなりますよ?」
「だったら、またエロに戻りぁいいんだよ」
 イースケのボス。八百長ボクサーの顔を出してしまったのだ。
「ケツ穴ぶち込み十連発よ」
 イースケはベッドの掛け布団を丸めて腰をあてがい、無我夢中でこすり上げた。
「エロスの女神は俺に屈服するぞ。ヒーヒー言ってるぜ」
 イースケの日課である。これをやるとき、性的興奮が現実のセックスより昂るのだ。エロスの女神のエクスタシーに感応して、イースケもピクピク体を震わす。これが、かりそめながらも、脳天からエネルギーが突き抜けるのだ。
「あの男は本当のエロスを知らないな。でも、これを配信しても、単なる間抜けだからな。教えてやりてぇな。教えない方がいいな。俺だけのものだな」

 豊平川の河川敷を歩く。川原を見れば、張りのある中年太りの男が8月の太陽に焼かれている。段々になった腹をめくり上げる。隠れていた所が焼きムラになっている。河川敷を走る何かを求めている中年女性。カモは群れをなして可愛く、釣り人は個の世界に入る。広場で中学生がサッカーボールを蹴っている。
「俺、リフティング三十回出来たら、女ヤルから」
 少年は友人の邪魔が入ったと、笑っている。
「お前の目線。めちゃプレッシャー」
 この少年は『男になる』というハードルをどこに持ってゆけばいいのか分らないようだ。
「東中には吉ちゃんいんだぞ! ビビッて逃げる前に挨拶しとけよ! 東中の吉ちゃん知らねぇ奴もぐりだぞ! 東中の吉ちゃん石のパンチで風穴開けるぞ! 東中の吉ちゃんもうすでに天井超えたぞ! 常識超えたぞ!」そう叫びながら制服姿の中学男子が通り過ぎる。イースケは「俺に言ってるのか?」と、周りを見渡したが誰もいなかった。「吉ちゃんは大きな傘を持っているの? みんなを守ってくれるの? そう? そうなの。良かったねぇ」
 イースケの青春時代。
『絶対』と信じた後の、あの不安感。恋のけだるさとも言う。大きな傘? そう。でもさ、何かが漏れている気がした。マッタリと、とろけるような倦怠感。恋が大きな傘? それとも俺が大きな傘になる? 「このまま日々が続けば良い」そんな歌に巻き込まれずに、す
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