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「ボクサー だいたいみんなノーモーション
「ボクサー だいたいみんなノーモーション」(1)
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一人ぼっちを呼んでくる。俺は責任感のある男だろうか。汚れをまとったまま、愛されたくはない、という感覚。キレイな体で愛されたいなんて、乙女みたいじゃないか。八百長ボクサーはクスクス笑った。

     ※

 男から、「ボクサー? たいした事ねぇよ」と、気が飛んでくる。タノムの内側に入らんとするから、「たいした事ある」と、押し返す。せめぎ合いの境界線が胸の中で震える。タノムは何だか若い頃を思い出す。都会に入れば、漠然と心満ちて、郊外に帰れば、自分が大人になったことに気が付く。熱して冷ます、の繰り返しで大人になるのだ。ボクシングジムは『都会』のようで、そこから一歩出ると「本当に俺には何かあるのか?」と思える。そして次の日も熱くなりに行くのだ。「何もありゃしない」と捨てる心に敵愾心などそよぐ風なのに、今日は何だか気になった。そう、すべてを出し切った心に、いちいち何の反抗がある? それは、一生懸命出来なかった奴だぜ。「もしかすると、まだ何か燃え残っている?」自分の心の隅々まで、脳の中に光を走らせて探している。そこには「不満」や「うっ憤」は見当たらないけれど、「若干の未来」があった。明日のチャンピオン。あれは『未来』か? 明日、感じよう。
タノムはふと思う。ガラスの向こうに見える花屋。そこには知らない世界が溢れている。タノムは花の世界をかっちり護っている女の子に共感を感じたい。俺だって世界を護っているんだって。

「俺みたいなもんにボクサーが務まるか?」そんなんで始めたものの中に、幾分あやふやなゆるさを見たんだ。そしたら安心した。安心して慢心した。そのときバネがゆるんだ。
「もっと高く跳べるんじゃないのか?」そう思ったのは、昔より汗をかかなくなったつい最近の事だ。たくさん汗をかいていたら何故だか日々が、意識がゆるりと平和だったんだな。
「未来が無かったのかも知れない」そこには、そのジムのつながりには未来というものが無かったのかな。もし、そのつながりに未来が、自分自身に未来があれば、鮮やかな明日を夢見れたはずだろ? いや、鮮やかじゃなくリアルな、キリリとしたリアルな夢だ。
 ボクシングを刺青みたいに考えている若い男を、先輩面してたしなめたり、自身のある右ストレートで威圧してみたりしているうちに、少しずれた心にどう落としどころを見つけるか思案していた日々。その、刺青ボクサーの二人。ジムに女を呼んで、笑いながら、楽しそうに練習していた。
「燃えるのはいいが、あちこちに矢印を向けると大成しないぜ」若い俺、思う。今なら「それもありね」と言うだろう。
 俺の愛するボクシング。それはちゃんと人々を燃やしているだろうか? 俺、ボクシングはかりそめの太陽だと思うんだな。
 この世から追放された霊魂は、太陽に放り込まれる。太陽は『想い』まで燃やす。植物は素晴らし
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