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「ボクサー だいたいみんなノーモーション
「ボクサー だいたいみんなノーモーション」(1)
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のように浮かぶ。パンチをもらって、ふらふらと後ずさり、左足を下から一番目のロープと二番目のロープの間に入れて、かがみながら尻を二番目のロープと三番目のロープの間から突き出す。後は上半身をリングの下に放り出せば、あや取りに引っかかった間抜けな敗北者として笑われるだけ。完璧なあて馬として笑われて多少金持ちになる。その代わりに「ボクサーは強い」と、言えなくなる。八百長ボクサーはこの過程を語った。わりと熱が入った。まるでナンパした女の子が極上で、スゲェいい思いをした事を語るみたいに。八百長ボクサーは、「逆さまにぶら下がって、天地を逆に観衆の笑い顔を見たとき、何かが切れたこと」を思い出した。「何が切れたのだろう?」
「うんうん。なるほど」と、イースケは相槌を打った。このコメントなら使える。ウケる。「具体的な話。もっと、あります?」と、訊いた。
 八百長ボクサーは、人差し指と親指を擦り合わせて「もうちょっといい?」と、返してきた。お金の話である。イースケはうなずいた。
「あれ、やるとき。ジムの名前、出さないの。架空の名前でやるの。そしたら看板、守れるでしょ? ちょっとした抵抗。あて馬、かませ犬の名前なんて、誰も覚えてないけど、リングネームも変える。この話ダメ?」
「いや、いいですよ。名前、なんていう名前で……」
「言うの? それ、顔 映ってる?」八百長ボクサーはテーブルの上のカメラを指差した。イースケは考える風をして天井の灯りをみていた。タバコの煙がその中を泳いでいる。
「名前と顔。一致したらやばい話ですか?」
「そう思わない? とんでもない金を動かす為に色々細工する人たちだよ? 違う? 怖くない?」
「すいません。モザイク入れます。すいません」と、イースケは言った。
「笑顔の素敵なヒットマン。イーモン・ボーイズ・山花。ですよ」八百長ボクサーはかなり激しく笑っている。イースケは乗ってきたのかな? と思う。「イーモン?」とは思ったが。
「いくらで。あの、その仕事。どのくらいのお礼、というか」
「ああ、もらった金? その話の方がウケる? 『ピッタリ』分る? 札束一つ」
「女はどうですか? 女の子とか……」
「彼女と寝たよ。『いいじゃん、そんな世界捨てちゃいなよ』って」真面目顔で語る八百長ボクサーが笑い出した。「あのさ……口座に金、入ったとき。『カミサマ』って書いてあるの。入金した人の名前『カミサマ』って」
「すごいですね『カミサマ』からお金もらったんですか。僕も欲しいですね。知らぬ間に人助けとかした後、口座に『カミサマ』欲しいですね」そう言うイースケを見て、八百長ボクサーはちょっと醒める。
「奴は金の力で愛を買ったんだ。本当の勝負で得られる、神様からの愛じゃなく、それには数段劣る愛らしきものをね。そう思ったら何だか自分の人生がやわらかく許せるよ
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