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死んだふり
第三章
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いた。
「ここで佐藤を出すっちゅうことはまだ切り札が向こうにあるっちゅうことや」
「山内でしょうか」
 そのコーチは言った。
「いや、山内は先発でくるやろ」
 西本はそう読んでいた。
「多分次の試合や」
「次の試合で、ですか。すると誰を出してくるか」
「それが問題やな。まさかこんな早く西岡を引っ込めるとは」
「相変わらず何をしてくるかわからない奴ですね」
 彼等は野村の采配に不安を感じた。それは野村にも伝わった。
「かかったようやな」
 彼はマスクの奥で笑った。
「今日はもろたで」
 そして佐藤のボールを受けた。
 佐藤は左右の揺さぶりを得意とする男である。野村はそれを自由自在に使い阪急打線をかわした。だが阪急打線は手強い。おそらく佐藤が疲れたらすぐに攻撃に出るだろう。野村は一球一球受けながら替え時を見計らっていた。
 三番手は村上である。ここであえて左だ。
 村上も変則派である。野村は変化球主体のリードで阪急の攻撃をかわすことにしたのだ。
「村上か。また難儀な奴を出したな」
 西本は顔を顰めた。こうした軟投派の継投はタイミングを崩されやすい。それが野村の狙いだということはよくわかっていた。
「考えよるわ」
 西本は苦い声を出した。
「次は江本がくるで」
「江本ですか!?」
 コーチはその名を聞いて驚いた。
「そうや。短期決戦やしな」
 流石にここまでくると野村の采配の意図が読めてきた。どうやら小刻みな継投でかわすつもりらしい。
「今日は苦しくなるな」
 その言葉は当たった。江本に繋がれそのサイドスローからくる独特のエモボールの前に凡打の山を築いた。そして九回表、阪急は追加点を得られないまま終わった。
「初戦を落とすとはな」
 西本は憮然とした顔で言った。

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