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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五話 嘲笑する虐殺者
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族連合軍が攻め寄せてきます。昨日、オーディンを出立しました」
「……」
「レムシャイド伯の話では貴族連合軍の総兵力は十八万隻を超えたそうです」
“十八万隻!“、”増えているぞ“と彼方此方から驚きの声が聞こえた。俺も驚いている。十五万隻を想定していた。数の優位を保つために全艦隊を動員したのに優位が保てない、貴族連合軍の兵力は同盟軍とほぼ同数に近い。

「総司令官代理、それは確かな話なのでしょうか?」
ビュコック元帥が問い掛けるとヴァレンシュタイン総司令官代理が頷いた。
「レムシャイド伯はブラウンシュバイク公から伝えられたそうです。帝国貴族四千家、その総力を上げれば二十万隻は軽く超えるはずです。ブラウンシュバイク公とリッテンハイム侯が参加していないのですから十八万隻というのはおかしな数字ではありません」

彼方此方から呻き声が漏れた。貴族達の強大さを今更ながら理解した、そんなところだろう。皆の表情が強張る中ヴァレンシュタイン総司令官代理だけが謎めいた笑みを口元に浮かべている。慌てふためく我々を嗤っているのだろうか……。
「十八万隻を超えるとなれば将兵は二千万人に近いでしょうね」
「……」
「殺しがいが有る」

ギョッとした。思わず総司令官代理を見た。俺だけじゃない、皆が見ている。総司令官代理の笑みが大きくなった。嗤っているのではない! 喜んでいるのだ! 心臓を鷲掴みされたような恐怖を感じた。俺だけではないだろう、誰かがゴクリと唾を飲み込む音がした。

「どうしたのです? そんな顔をして」
「……」
誰も口を開く事が出来ない。ただ上機嫌な総司令官代理を見ている。
「戦争に勝つという事は如何に敵兵を多く殺すか、そういう事でしょう。驚く様な事では無い筈ですよ」
「……」
会議室に総司令官代理の声だけが流れた。平静で柔らかな口調だ。そして口調と内容がまるで一致していない。本当に理解して言っているのだろうか……。

「まして相手は貴族連合軍、あのルドルフが帝国を護る藩屏として創った連中です。五百年間好き勝手してきたのですからね、手心を加える必要はありません」
「……」
「鏖殺します」
“鏖殺します”、その言葉がやけに重く響いた。また誰かがゴクリと唾を飲み込む音がした。総司令官代理がクスクスと笑い声を上げた。会議室が凍りついた、金縛りにでもあったようだ、身動ぎ一つ出来ない。彼は貴族連合軍の皆殺しを望んでいる……。ニーズホッグ、嘲笑する虐殺者……。

「貴族連合軍はフェザーン方面から同盟領侵攻を図るようです」
フェザーン? ようやくその言葉に皆が反応した。本当か? と確認するかのように顔を見合わせている。何処からか“フェザーン回廊は中立のはずだ”という声が聞こえた。何人かが頷いている。総司令官代理が笑い声を上げた、明ら
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