内なる覇を雛は見つめる
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ただ、歴史を知っているが故に彼の思考には一つの穴が出来ている。歴史を知っている事はばれてはいないが、その穴にだけ雛里は気付けた。彼と長い時間共に過ごし、関わる事によって。そして彼自身の掲げる思想がどのようなモノかを知っているから。そこが詠と雛里の差なのだ。
「秋斗さんはいつでも一人の人と相対する為の思考を行っているんです。それに……彼自身、その人の思考をなぞりつつ行動しているように見えます」
勿体付けて言う雛里に詠は少し眉根を寄せたが、誰なんだろうと考えを巡らせ始め、そして直ぐに思い至った。
「……曹操ね」
考えてみれば簡単な事だった。幽州の注意喚起による現状の打開も。後に袁家が消えて乱世の果てに誰が生き残るか、と問われれば曹操の名は軍師であれば間違いなく上げる。
同盟などで乱世を終えるつもりは無いと明言している以上、最大の壁として立ちはだかるのは一人の覇王。
より確実に力を溜めて相対する為の思考を行えば、自ずと彼の思考の先は辿る事が出来るのだ。そして曹操の人となりを知っている雛里からすれば、彼がどのように動こうとするのか予測し、自身の中で最善の献策を行えばいい。
「はい。彼は曹操さんを倒す事だけを念頭に置いて思考をしています」
「でも雛里ちゃん、思考をなぞってるってどういう事?」
月の疑問の言葉に雛里は難しい顔になって悩んだが、二人には話しておこうと決心した。
「……きっとあの人もご自分では気づいていません。あの人は……曹操さんを求めています」
ぽつりと、零された言葉に二人は絶句する。何故、そんな事が言えるのか分からずに。
二人は曹操軍の噂は聞いているが、その中身を直接見た事は無い。雛里は黄巾の時に間近で見て、技術を盗んできたから秋斗の行っている事がどういうモノか分かる。
「徐晃隊がいい例かと。尋常ではない程に厳しい規律、平穏の為に求める覚悟の大きさ、その二つは曹操さんの作る軍と全く同じだと言っていいでしょう。そして、御大将とまで慕う隊員の死にすら拘らず、その死を全て背負い、敵味方で出来た数多の屍を積み上げ礎として、誰彼から怨嗟を受けるのも承知の上で一人高みに立ち、全てを従える為に行動をする……そんな彼は間違いなく覇道を歩む人ですから」
だから同じ覇道を歩む曹操を深層心理では求めている、と雛里は言っている。
月はすぐさま納得した。自身が王として、嘗てその責任を背負っていた故に。自身の願う平穏を作り出す為に立ち上がっていた一人であるが故に。
そして雛里の考えている事を把握する。先ほどの、桃香への献策の時機への意見、あの時の目くばせに隠された意味と共に。
「雛里ちゃんは……秋斗さんと違って次で桃香さんを見極めるつもりなんだね。万が一の時にどこに行かせるかも
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