謎解き
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「ヒカル、待ってください」
「ごめんなさい藤原さん。少し一人にしてくれませんか」
さっきとは別人のようにヒカルは振るまった。何があったのだろう。私は自分に原因があるのかと不安に駆られた。ヒカルは中庭を抜けて病棟へ入っていった。
「ヒカル・・・!」
私が叫ぶとヒカルは振り向いた。その顔には少し恐怖が刻まれているようだった。
「ご、ごめんなさい。記憶がないのに初めからこんなに親しかったら気持ち悪いですよね」
私は軽く頭を下げた。するとヒカルは困ったように、もどかしそうに、こう言った。
「違うんです。ただ、何か・・・」
「何か?」
「いえ、何でもないです。あの、今日は本当にありがとうございました」
ヒカルの言い方は有無を言わせない言い方だった。結局私は苦い気持ちのまま帰途にのった。後から聞いた話によると、和谷と伊角さんが入れ違いでヒカルのお見舞いに来たらしい。
進藤ヒカルが倒れたということは一部の囲碁関係者に知れ渡っていた。そんな中、塔矢アキラは頭を抱え、自室の机で考え込んでいた。
進藤の記憶が、戻らない・・・。進藤・・・二度と戻らないなんてことは、ないだろうな!
「アキラ」
アキラは声のした方を向いて、「どうぞ」と返した。父が来るなんて珍しい。開けられた障子から姿を見せた父は少し疲れた様子だった。
「お父さん、どうかしましたか」
「進藤君が入院したと数日前聞いた。しかし、頭を打った衝撃で、記憶を・・・失ったと」
お父さんも知ったのか。まだ新年も明けて少ししか経っていない。お父さんは誰に教えてもらったんだろう。
「はい、一週間前くらいに。夏からの記憶が全くないんです。この前病院に行きましたが、進藤は少しも思い出せないんです。例え僕がその期間の話をしてあげても」
お父さんは「そうか」と苦い顔をして頷いた。
「あと・・・、進藤は佐為さんのことを憶えていません」
「なに?」
「進藤と佐為さんが出会ったのは去年の夏なんです。だから、記憶が欠損している部分だけに佐為さんは存在していて・・・。佐為さんは毎日お見舞いに行っています。少しずつ仲良くなっていますが、まだまだ距離は大きいですよ」
僕はお父さんに畳に座るよう勧めた。僕も椅子から立ち上がって、お父さんの目の前に正座した。お父さんは畳の一点を見つめて、呟いた。
「藤原君か・・・。彼もまた、話題になっているな」
「saiですか」
「私は進藤君をsaiだと思ったことがある」
この告白に僕は息を飲んだ。お父さんも、進藤にsaiを感じていたのか・・・。いつからだ。新初段シリーズに指名した時から?
「ええ、だから僕も納得できませんでした。佐為さんが、まさかあ
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