第十一章 追憶の二重奏
幕間 庭園の管理人
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「?」
答えになっていない応えに、カトレアの思考に疑問符が浮かぶ。
「あの、それはどういう」
「んん〜……そう、ね……どうしよっかなぁ〜」
カトレアから視線を外したまま、咲き誇る庭園の花々に顔を向けながら小さく呟くイリヤ。小さく唇を突き出し、リズミカルに『ふんふん』と鼻を鳴らすイリヤの姿に、妹の小さな頃を思い出したカトレアの頬が緩む。
ふっ、と空気が和らいだその時、穏やかな風が吹き、白い髪が広がり一瞬イリヤの顔に薄い影が広がる。
瞬間、カトレアの目が小さく開かれた。開かれた視線の先には、靡く髪を抑えるイリヤの姿が。
風から逃げるように小さく目を伏せたイリヤの横顔は何処からどう見ても幼いそれでありながら、深い知性と老齢な落ち着きを感じさせた。名工が生涯を掛けて造り上げた人形のような繊細な美しさと、何千年もの時により形作られた樹木のような深さと大きさ。掛け離れたそれを同時に感じさせながらも、違和感は感じない。
心在らずと言った様子でイリヤの横顔を見つめていたカトレアであったが、不意に視線をテーブルの上に落とすと、誰ともなく小さな声で呟いた。前に座るイリヤも聞き漏らしてしまってもおかしくない小さな声で。
「……イリヤさんは。シロウさんのお姉さんなんですか?」
「そうよ」
「―――」
直後に返って来た返事に思わずカトレアは息を飲む。
期待していなかった質問への返事にではなく、その返答の内容に、だ。
シロウさんのお姉さん……え、でも、シロウさんのお姉さんは確か……。
動揺する中でも、何とか考えを纏めたカトレアが視線を上げると、自分を見つめるイリヤと視線が合った。
固まるカトレアに、イリヤは小さな笑みを向けている。
「良くわかったわね」
「……シロウさんから少し聞いていたので、もしかしてと思いまして……でも」
「その様子……どうやら知っているようね。私が―――」
イリヤの言葉の続きを、カトレアは口にする。
「―――既に亡くなっている、と」
イリヤの目がスッと細まり、浮かべる笑みが濃くなった。
テーブルに両肘を着け、組んだ手の上に顎を乗せたイリヤが無言で問いかけてくる。
何か聞きたいことは? と。
だからカトレアは疑問をぶつける。
そもそもの、根本的な疑問を。
最初に目覚めた時に浮かんだ疑問を。
「ここは、何処ですか?」
「……やっとその質問が来たわね」
微かに軋み音を立てながら背もたれに体重を掛けたイリヤは、不敵なムフフと含んだ笑みをカトレアに向けた。
「何処だと思う?」
問いに、カトレアはまずは常識的なものを返す。
「夢……ですか?」
「そう、ね。十点ってところかしら。確かにそうと言えるとこ
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