第十一章 追憶の二重奏
幕間 庭園の管理人
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軽く頭を振り、改めてイリヤと向かい合う。
「イリヤさん。わたしとあなたは初対面ですよ、ね?」
「そうね」
「では、何故わたしの事を知っていらしたのですか?」
「え? 知らないわよ」
頬に人差し指を当て、イリヤは眉間に眉を寄せる。
「ん? ですが、わたしの名前を……」
「ああ、それ。ん〜そうね。知ってるのは知ってるけど、でも、あなたのことについて私が知ってるのはせいぜい三つ程度よ」
「三つ、ですか?」
人形のように細く白い三本の指が立った手が揺れる様を見つめるカトレア。
「そう、せいぜい三つ。名前と、あなたがルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの姉であることと。あとそうね……」
「……」
特に気にしてはいませんよとばかりに上品にカップに口をつけるカトレアであるが、その上半身はイリヤが座る方向に向け微妙に倒れていた。そんなカトレアに対し、イリヤはニンマ
リと何処か悪戯じみた笑みを浮かべると、一言一言ゆっくりと含みを持たせた声を向ける。
「あなたがシロウを愛してるってことだけね」
「ッ!!?」
吹き出しかけたものを必死に飲み込もうとするも、流石に無理だったのかカトレアは激しく噎せ始める。息が上手く吸えないのが理由ではない赤みを頬に浮かべるカトレアの様をにやにやとした笑みを浮かべながら見下ろすイリヤ。何とか呼吸が整いだし、顔を上げるカトレア。その頬には未だ抜けきれない朱が差している。
「ど、どうして」
「どうして知っているのかって?」
「え、いや、あの、その……」
わたわたと手やら首やらを振るカトレアに、イリヤはテーブルに両肘を着け、顎を左手に乗せると、空いた右手の人差し指を立てると一度二度と左右に振った。
「ふふふ……お姉さんは何でも知っているのよ、何でも、ね」
「……先程は三つ程度しか知らないと……」
「嘘よ。う・そ」
「……どちらが嘘なんですか?」
イリヤは軽く言うがカトレアにとっては重要なことだ。ゴクリと喉を鳴らしながら問いかけるカトレアに、小さく鼻を鳴らしたイリヤは右手の手のひらを上に向けると肩を微かに竦めてみせた。
「さあ? どっちだと思う?」
「わからないから聞いたのですが……」
軽く落ち込む様子を見せるカトレアに、流石に悪いと思ったのかイリヤは苦笑を浮かべると顎を引き浅く頭を下げる。
「ごめんね。ちょっと揶揄い過ぎたわ。『何でも』の方が嘘よ。本当にあなたのことはさっき言った三つ程度のことしか知らないわ」
「いえ、ですからその三つはどうして知っているのかと……?」
カトレアから視線を外したイリヤは、周囲の花々に視線を向ける。
「ん〜、そうね、まっ、私がこの庭園の管理人だからかな?」
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