第十一章 追憶の二重奏
幕間 庭園の管理人
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トレアは顔を上げる。
「? どういうことですか?」
「ここはね。ちゃんとした手続きというか、術式を使わないと来れない筈なのよ。ここの外なら条件さえ揃えば誰でも行けるけど、ここには近付くどころか気付くこともないように出来てるの。なのに……」
手続きも術式も何も気付いたらここにいたカトレアは、ただ頷き相槌を返すことしかできなかった。
「そうなんですか?」
「そうなの。なのにあなたは自然とここに入り込んでいるし。そこであなたが寝ているのを見つけた時、心臓が止るかと思ったわよ」
小さな身体を自ら抱きしめ、震えながら見上げてくる相手の姿に、カトレアは何が悪いか分からないまま反射的に謝ってしまう。
「す、すみません」
「っふ……でも、本当に久しぶりにお話も出来たし、別に構わないわよ。ここは退屈はしないけど、やっぱり女の子だからね。たまにはお喋りがしくなるのよ。だから今回は許して上げる」
軽くウインクしてくるイリヤに、カトレアは笑みを返すと頭を深々と下げた。
「あ、ありがとうございます」
頭を下げるカトレアを見つめていたイリヤは、小さく顔を横に動かしその横を見ると。目を細め小さく声を上げた。
「……ん、そろそろのようね」
「何がですか?」
何がそろそろなのかと疑問を投げかけてくる相手に対し、イリヤは雲一つない青空を指差した。
「さようならの時間が、よ」
「え?」
「手、見てごらん」
イリヤの差す指先にある、テーブルの上に置いていた自分の手に目を落とすカトレア。
「あっ?!」
視線の先、自分の手が、
「消え、てる?」
「安心しなさい。身体が目覚めようとしているだけよ」
動揺に震える声に、イリヤの落ち着いた声が被さる。
右手を掲げ、完全に消え去った自分の手ごしにイリヤを見るカトレアは、残念そうな声を上げた。
「……時間切れということですか?」
「そういうこと」
「また、ここに来ても……来られるのでしょうか?」
笑って頷くイリヤに、カトレアは何処か伺うような目で問いかける。
弱々しく下から見上げるカトレアの、小さな子供が親に何かをねだるような姿に思わずイリヤの頬が緩む。明後日の方向に顔を向け、もったいぶるように顔を左右に小さく揺らしながらチラリとカトレアを伺う。大人の魅力に満ち満ちた身体を小さく縮こまめて小刻みに身体を震わせるカトレアの姿に、ふっ、と小さく息を漏らす。
「そう、ね……ま、いっか。まだ色々聞きたいこともあるし、いいわ。あなただけ通れるようにしておくわ」
「っ! ありがとうございます」
ぱあっ! っと華が綻ぶように笑みを浮かべるカトレアに向けてひらひらと手を振ると、イリヤは肩を竦める。
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