第五章、その2の4:弔い
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白き王都は新緑の麦に囲われている。昨年はここ数年ぶりの当たり年で、穀物庫は麦によって占領されてしまった。今年は一体どれほどの豊作に恵まれるのやらと、城門から馬車で、或は水路から船で行き来する商人や農民の顔は明るいものとなっていた。
風が吹いて緑の海がざわめいた。誰かに踏まれたのか、一把の麦が路肩で台無しとなっており、風によってはらひらと地面を滑っていく。エビぞりになりながら止まったそれを馬の蹄が踏み付け、後に続く重たい車輪がさらに踏み付けた。春の陽光に再び顔を見せた麦は無残な姿に変わってしまった。
横並びに馬を進めているキーラと、その父ブランチャード男爵。男爵は少しわざとらしく声を掛けた。
「キーラ。あれを見ると良い。ハドソン一家が拓いた麦の大畑だ。知っているか、ハドソン一家を?数代前から続く由緒正しき農家で、去年最も多くの麦を穀物庫に収めてくれた。執政長官より功労賞を頂いたと聞いている。臣民の鑑だ。皆、あの者を模範としてほしいものだ。
......あー。ところでキーラ。具合は大丈夫か?さっきから無口だが。何か気に病んでいる事があるなら私に相談してくれてもーーー」
「私は大丈夫です。さぁ、王都の正門が見えて参りました。気を引き締めて参りましょう」
「あ、ああ。そうだな。本当にいいのか?」
娘は答えず、前を行く騎士の背中を見詰める。純白のマントが靡く様は颯爽としたものだがその心中はどんなものを描いているのか。彼女はエルフの大地から旅立ったあの日からずっと黙したままである。キーラの心に不安の波が過ぎった。
一月前、エルフ自治領より帰路へと旅立った北嶺調停団は長らく任務を補佐してくれた監察団の面々を連れ、懐かしき王都の城門を潜り抜けた。民衆の歓迎の声が彼等を迎える。色鮮やかな花吹雪が舞うほどの準備の良さは、きっと役所の人間が必死に『調停団帰還』の報せを触れ回ったからできたことに違いない。人気取りというのも為政者の辛い役目の一つであった。
監察団を代表するかのように、ジョゼが愛想よく笑みを振りまいている。隣にいるユミルの仏頂面と比べて、何と表情の華やかな事か。
「この空気、嫌いじゃない。英雄はこうして迎えられるもんだ。そう思わないか、ユミルよ?」
「俺は英雄なんて柄じゃない。狩人だ」
「またまた。エルフ領じゃ俺よりも多く賊を殺してたくせに。後で聞かせろよ。俺はクウィス領じゃ亀になっててな、たまには鉄の臭いを嗅いでみたいし、そういう話を聞きたいんだ」
「......見ろ騎士団が迎えてくれるようだ。服の乱れを直せ」
「おっと。ありゃ昔の上司だ。いつも切れ痔だって噂のな」
「切れ痔?」
「ヤられたいお年頃なんだよ」
調停団一同は王都の内縁部に繋がる城壁に差し掛からんとしていた。出迎えに現れた騎士ーー
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