第五章、その2の4:弔い
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らに数分ほど歩くと、やっと目的地へと着いたのだろう、ユミルが二人を迎えてくれた。彼の背後には大きな教会が構えられている。
「来たな」
「こんばんは、ユミルさん。今日は私を呼んで下さってありがとうございます」
「当然の事をしたまでだ。同じ場所で、同じ務めを果たしたのだからな。此方こそ礼を言わねばならん。君の優しさに敬意を」
「貴族の娘である前に、私も一人の人間です。立派な行いをした方はせめて自分達の手で見送ってあげたいですから。ところで、ここって教会ですけれど、ここで弔いをするのですか」
「ああ。神言教の教会だ。つい二か月前から改装が始まったばかりなんだが、此方の話を聞いたところ『是非ここを使ってほしい』と申し出があったそうだ。そうでしたね、クマミ殿」
「その通り」
暗がりからぬらりと、逞しき壮烈な騎士が顕となる。黒衛騎士団団長に返り咲いて早数か月。今では王国の象徴ともいうべき存在となっている矢頭熊美であった。今日はいつもの頑強な鎧姿ではなく恰幅の良い茶色の麻服を着こなしていた。
熊美の傍にはリコ、そしてリタが控えられている。どうやら向こうは向こうで、別の方向から此処へ辿り着いたようであった。
思わず背筋をぴんと伸ばすキーラやパウリナを見て、熊美は優しく微笑む。人生経験を重ねなければ出せぬであろう、重たくも優しい声で熊美は旅の苦労を労う。
「みんな。よく帰ってきたわね。王国の名誉を守るため義務を果たした。そしてケイタク君と一緒に戦ってくれた。あなた達が帰ってきたことを心から祝福するわ」
「......本当なら、全員で帰ってきたかった」
「いい、リコ君。過去はどんな手を尽くしても変えられない。どんなに頑張ってもそれから逃げる事なんかできない。だから受け入れないといけないわ。あなたもそうするために、ここに来たんでしょう」
「......はい。いつまでも逃げてばかりじゃいけない。最後まで希望を捨てちゃいけないと、姉さんに」
「そう。切欠は何でもいい。あなたは過去の自分に向き合う事ができた。そしてそれを認めることができた。それだけでも立派だわ。他の皆もそうよ。辛かったろうに、よく頑張ったわね」
熊美の言葉にリコは唇を噛みしめた。心中は辛いであろうに胸から込み上げるものを抑えんとして、気丈にも熊美から視線を逸らそうとはしなかった。
キーラはその姿に敬意を覚え、パウリナと囁きあう。
「いい子だね、リコ君」
「ほんと。何も悪くないのにあんなに責任を感じてるんだから。あの子はもっと報われるべきだよ」
「もっとって、今は違うの?」
「北方の地図を製作してその報酬を貰おうとしたら、依頼主さん、約束をしらばっくれて地図だけを奪ったんだって。酷いよね」
「その人の名前を教えて。後でそれなりの罰を下さなきゃ」
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