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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の4:弔い
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都で彼を待つ事。彼を迎える準備を整える事です。彼を信じているのならそうしなさい」
「....殿下は、楽観視していらっしゃる。殿下が信じているのは『契約』でしょう?あなただって、本心は違うはず。一人になるのが怖いから形の無い契りに縋っている。そうではありませんか?」

 乙女の青筋がひくついた。不穏なる騎士の発言に、琥珀色の瞳から慈愛の色が消えかかっていた。しかし王女は気丈にも、自分の感情を抑えつけてそれを取り戻す。主従の関係をこのような形で終わりにしたくない。
 王女は手をそっと前に出す。何もない空間に白い鱗粉のようなものが現れると、胞子のように弾けて、その中からフィブラが落ちてきた。コーデリアはそれをひしと指で握る。

「これを見なさい。私と彼の絆の証です。これが呼び出せる以上は、まだ彼は私と共にいてくれる!あなたには感じられないでしょうが、私は確信しているのです!
 ....邪悪な魔力がこれから放たれている。闇夜よりもなお暗い魔力が。なぜこうなったのかは分からない....でも、光そのものが消えた訳では無い。
 きっと大丈夫です。あの人が王都に帰れないのは、何か事情があるからでしょう。あの夏の日が最後の別れになったわけじゃない。
 それはあなたにも言える事です。あなたはエルフ領で、彼と未来永劫の別れをしてしまったと思っているのでしょうが、そうなる訳ではありません」
「....でも、いずれ問題が起きる。そういう風になっているのよ」
「どうしてそう悲観的なの、アリッサ。あなたらしくない」

 アリッサは立ち上がり、突き放すような視線で王女を見詰める。彼女自身気付いているのだろうか。背が僅かに丸み両手が前に構えられている様は、まるで大事なものを抱えそれを守るような様となっていた。

「コーデリア。あなたは知らないでしょう。私と彼との間に何があったか。彼が私に、私が彼に何を求めたかなんて」

 一瞬、コーデリアは騎士の言葉を理解し損なう。そしてそれに隠された顛末の一端を想像すると、琥珀色の瞳は信じられないように俄かに開かれた。心を惑わすための狼藉じみた放言ーーそれとて主に対する敬意を逸した看過できぬものだがーーと思えたが、碧眼に揺らぐ感情の中にコーデリアは引っ掛かるものを感じた。まるで誰も持っていない玩具を得意げに自慢する子供にも似ている。『優越心』とも呼称できた。
 国王の部屋に並んで宮廷で最も品位のある部屋に、重たい沈黙が霧のように立ち込める。無関係な第三者が部屋に入れば、その冷たさに寒気に晒された鉄を思い出すだろう。夕陽よりも瑞々しいオレンジの光と、深い森林のようなグリーンの光が視線を絡み合わせている。親愛と敬慕。疑念と不信。そして優越と嫉妬が交錯され、御互いの間に溝を作っている。
 不毛な争いに終止符を打ったのはコーデ
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