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王道を走れば:幻想にて
第五章、2の3:エルフとの離別
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 湿地帯の沼地のように白濁とした視界が徐々に冴え渡ってきた。最初に目にしたのは古錆びたランタンの火と今にも崩れてきそうな木の天井。そしてその腐臭であった。
 がさがさとした目脂や寝汗によって不快感を感じる。気持ちが悪い目覚めであった。一刻も早く顔に水を浴びせてやりたい。そして新鮮な果物を齧りながら朝の陽射しを謳歌したい。健康的な肉体は、今日は何時もにもまして空腹を感じているようであった。何か激しい運動でもした後のように身体ががちがちになっていて、軽く解してやりたい気分であった。
 慧卓は身体を起こそうとして、『がしり』として全く動じない自らの身体に驚いた。全身がきつく『拘束』されている。冷たい石ーーー大理石のようであったが見たことのない外見であったーーーでできた机に寝かせられ、糸状のものが何重にも手首足首を縛っている。これは魔術によるものだ。糸に流れる魔力をどういうわけか感じてしまう。王都でもエルフ領内でも感じなかったものが、今でははっきりと感じてしまう。まるで身体に『新しい機能』が備わったかのようであり、強烈な違和感を覚えた。

「御目覚めのようだな。若造」

 しわがれた声にはっとして首をやった。慧卓のすぐそばに、格式ばった錫杖をついた醜い鳩面の老人が立っている。彼が王国高等魔術学院の校長だと思い出した時、慧卓の脳裏には激しい戦いの光景が流れていく。情熱あふれる若人に追い詰められて何かが爆ぜた。シーンは転換して、自分はどういう訳か『秘宝』とされている錫杖を扱い、雷と衝撃をもって遺跡を崩壊させていた。人知を超えた極限の魔術と、風雨を引き裂く雷。映像は鮮明に大雪の戦いを写し、その最後のシーンではマティウスが己の首をねじ切っていた。
 それが現実のものだと知ることができたのは情景が流れると共に身体の節々が鈍り返したように熱を帯びて、ひりひりとした痛みを発したからだ。滅失した細胞が蛆にのように湧き立って再生するような感触。痛みが現実を認識させる。あれは確かに自分自身が経験していたことなのだ。意識が無いだけでその肉体は傷つき、そして敗北して、ここに置かれている。
 認識は変化を齎す。慧卓は己を瀕死にまで追いやったチェスター、そして幾度となく肉体的な死を経験させたマティウスが許せなくなる。

「よぉ。あの大雪の中、爺のくせによく生きていたな」
「生きていた?お前の最後の意識は、私を勝手に亡き者としていたのか?私を誰か知っての発言か。何と身勝手な。反吐が出るぞ」
「お前の面構えも十分むかつくよ。王都で殺しておけばよかった」
「それができぬのがお前の限界だ。では質問の時間といこうか。ここは一体どこで、私は一体何をしたと思う?」

 鼻で嗤いたくなる問いであった。聞かれずとも簡単に分かる。

「お前の陰湿な研究室だろ。大方....
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