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王道を走れば:幻想にて
第五章、2の3:エルフとの離別
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ど赦されんのだ」

 声が空々しく木立に響く。草蔭がざわざわと揺れたのは、小動物が剣呑な声に怯えたためであった。
 キーラはじっとアリッサを睨んでいたが、ふと視線を外して怒りを治めると、懐を探りながらアリッサに近付く。すっと差し出された彼女の掌には一つの指輪が置かれていた。王都を旅立つ際、王女より愛をこめて下賜されたターコイズの指輪である。

「これ。ケイタクさんがつけていた指輪です。リコ君が遺跡から持ち帰ってこれた唯一の遺品です。王女様に渡していただけますか」
「......仕事に戻れ、キーラ」
 
 最後に至って、アリッサの声は震え、視線は指輪に釘付けとなった。キーラの長い水色の髪が憂えるようにアリッサを掠め、彼女の足は仲間の下へと向かっていく。
 アリッサは指輪をぎゅっと握ると切り株に再び座り込み、膝を抱え、その中に埋まるように顔を隠す。脳裏に己を抱いた男の姿が過ぎり、瞼の奥がぐっと熱くなったのを感じた。深く吐き出された息は不意に吹きぬいた風を前に立ち消えとなり、ばたばたと揺れた髪の間からは僅かに嗚咽のような声が聞こえてきた。
 彼女が調停団の下へと戻ったのはそれからすぐ後の事であった。普段以上に気張っている彼女に一同は何も言わず、ただ最後の準備を整えるだけであった。慧卓の遺品であるターコイズの指輪はチェーンをかけた状態でアリッサの首にぶら下がってり、鎧の厚い守護の恩恵を受けている。今の彼女にとっては剣よりも重みのある存在となっているのかもしれない。
 手荷物が全て収容され、いよいよ後は馬を連れるだけとなった。苦難を共にした相方の不在に、黒き駿馬『ベル』はいたく落ち込んでいる様子であった。手綱を引かれても強く抵抗し、厩舎に篭ろうとしていた。だがユミルの、「帰ろう。ここはお前の家では無いのだ」との言葉に、ついに諦めたのか、ぶるると鼻を鳴らして彼を背中に乗せた。
 アリッサが厩舎に入って、ベルの隣に控えられていた別の馬に乗る。ユミルが声を掛けた。

「準備はいいか、アリッサ殿」
「ああ。早くここから去ろう」
「......本当に、いいのか?お前と話をしたい奴だっているだろう。話す気にはなれんのか」
「もう、いいんだ。早く帰ろう」

 つかつかと彼女の馬が蹄を鳴らして歩んでいく。気丈に振る舞っても心が平静ではないのがユミルからは丸分かりであった。
 ベルに手綱を打ってユミルは厩舎を出ようとする。しかしいつの間にか訪れていた二人のエルフを見て、彼は驚く。東の村の賢人ソ=ギィと、その娘であるチャイ=ギィであった。

「ユミル様」
「あなたは、ソ=ギィ殿?」
「ええ。直接お会いするのは初めてでしたわね。賢人ソ=ギィと申します。此方は娘のチャイ=ギィ」
「あなたにお渡ししたいものがあって、参りました。此方をお受け取り
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