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王道を走れば:幻想にて
第五章、2の3:エルフとの離別
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煙のように熱くなり、首飾りが妖しい光を放つ。
 獣のごとき唸りを発しながら慧卓はさらに拘束を解かんとしていく。一度は敗北した魔術の拘束は着実に肉体にダメージを与え流血を齎していくが、それこそ上等とばかりに慧卓は気力を振り絞る。肉が引き裂かれて筋肉を千切り、さらには骨が断たれていく。慧卓の肌は真っ赤に染まりながらも止まることを知らない。どこにそのような力と意思があったのか。 
 遂に慧卓の躰は拘束から『解放』された。ほとんど千切れかけた手足からは夥しい血が流れるが、慧卓はその激痛に動じず、マティウスへ猛進していく。不意を突かれたように固まった彼に血塗れの拳を振らんとした瞬間、腹部に凄まじい衝撃ーーー返り血が実晴の足に引っ掛かってしまったーーーがぶつかり、その身体は再び椅子に吹き飛ばされる。骨が何本か折られ内臓がぐちゃりと潰れる音が身体の内側から響き、満身創痍の彼を新品の『拘束』が縛り上げていった。
 手を前に翳したマティウスは俄かに感心したように慧卓を見詰める。血反吐を吐く慧卓は皓皓とした殺意でもってマティウスを睨む。

「っ、げほっ、げほっ......」
「さぁ、誰が支配者で、誰が下僕か分かったな?お前の意思を聞かせろ」
「......彼女には、絶対に手を出すな。そして俺の仲間にも、絶対に近付くな!俺がお前を、助けてやる!!」
「素晴らしい返事だ。事が終わるまで私達は手を取り合う。そして、私は彼女に決して害を及ぼさん。約束しよう」

 仲間については手を出すかもしれないという事か。憤懣やるかたなし。こんな状況は糞食らえだ。命乞いをする羽目になるなど。しかもそれが、今最も憎い男に対してとは。自尊心が掻き壊される瘡蓋のように見えてくる。
 マティウスは錫杖で慧卓の顎を上げさせ、「一度休んでおくといい。細かい事は明日伝えよう」と残して去っていく。狂王の秘宝と、その治癒能力に対しては大いに信頼を寄せているようで、それゆえの荒々しい対応だったという事か。
 慧卓は実晴を見んとしたが視界が歪んできたせいではっきりと捉えられない。徐々に落ちてくる瞼を必死に開けんとしながら、心に誓う。必ずあの男を殺してやると。万が一、万が一でも狂王がよみがえった時には、道連れを覚悟でもう一度眠らしてやると。
 彼の首ががくりと落ちた。首飾りの光はまだ皓皓としており、徐々に彼の傷は異形の意思によって再生されていった。混濁する意識の中、慧卓はふと自分の左手の薬指から、暖かさすら感じる重みが消えていたのを感じる。「失くしてしまったのか」と思うのを最後に、彼の意識は闇に落ちた。


ーーー二か月後、タイガの森にてーーー


 針葉樹の陰に積もった冬の名残も、穏やかな陽射しを受けて厚みを失っていた。厳しき季節を過ぎたあとの風は心を洗うかのように涼しく、穴籠りをや
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