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王道を走れば:幻想にて
第五章、2の3:エルフとの離別
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の野心がお前を利用しようとしているのだ。そうに違いない」

 マティウスの皓皓とした瞳が秘宝を睨む。歴史を語る彼の語気は強く、狂気を孕んでいた。

「彼は臣下に弑逆されて眠りにつき、恐怖の源とされた首飾りは持ち去られた。王の遺体はヴォレンド遺跡......宮廷が朽ち果てようとも無事なままでいられる奥深くに丁重に葬られた。死してなお辱められぬよう亡骸からは残った秘宝が取り外され、渾身の魔力によって亡骸には『防腐』の魔術がかけられた。数百年程度なら腐敗はせんだろう」
「なんでそんなことーーー」
「知っているのだ。今の話を記してある古い日誌を私は持っている。その著者は狂王に全てを捧げた信者なのだ。その者はもっとも大事とするものを捧げて『血の呪い』を掛けられた。信者は大いなる力を得て、狂王に魂から忠誠を誓った。
 彼は秘宝を祭壇に祀った後、遺跡から去った。日誌はその後、呪われた子孫たちによって引き継がれていった。彼の孫は小さな教会の神父となり、曾孫は王国の貴族の使用人として迎えられた。六代目は魔術学校の教師となって破壊魔法について多くの著作を残し、八代目は戦乱で将軍の地位にまで上り詰め、憐れな十代目は犯罪者として全ての肉を切り落とされた。
 そして彼の直系の子孫......その最後の一人は、地下に篭って邪悪な魔術を手にした。死者の肉体を用い、時にはその魂をも操る。マティウス=コープスは生まれながらにして......狂王のしもべだったのだよ。運命とはこういう事をいうのだろうな。認めたくはなかったが、認めざるを得ん」

 自らをしもべと自嘲した老人は、さっと背後へ杖を振った。奥の床がゆっくりと割れて左右に開かれ、下方から何かがせり上がってくるのが見えた。一見して、それは大きな石版のようなものでもあったが、僅かな光によって照らされると遂に正体を露わとした。
 慧卓はただ唖然とする。頬がびくびくと痙攣して信じられぬ思いで『それ』を見詰めた。古の狂った老人の歯牙は時代をこえて毒を齎すものであったようだ。因縁というのは恐ろしく、しかしそれからくる執着心はなお恐ろしいものだと慧卓は改めて実感した。
 恐怖の元凶が括り付けられるように石の玉座に安置されていた。痩せ細った白い手はかつて多くの者達を導き、力無く開けられた口は愉悦のままに人々を恐怖させてきたであろう。そしてその右目ーーー気のせいではないだろう、左目よりも窪みが深くまるで無理矢理押し広げられたように穴が空いているーーーは死して尚、姿無き敵を捕らえて離さぬほど強烈な無の眼光を注いでいた。
 『それ』は台座に拘束され、而して鷹揚に最良の機会を待っているように思えた。狂王は朽ちた躰から大いなる野心を放っていた。

「嗚呼、声も出ないか。そうだ。これは狂王の亡骸だ。お前を倒した後で遺跡の地下から見付け
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