第五章、2の3:エルフとの離別
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花束を受け取って別れの挨拶を送る。それを聞いた子供らは眼に大粒の涙を溜めながら、気丈に振る舞わんとしていた。
遥か南へと延びる道に向かってアリッサが先導を切って数歩進む。大きくその手を天に掲げると、グリーヴがきらりと光った。
「出立だ!!」
馬が蹄を慣らし、ひひんと嘶いた。スレンダーとも思える身体に詰まっているとは思えないほどの膂力で、己に繋ぎとめられた馬車の重みを物ともせず前へ進んでいく。
別れに堪え切れずに子供らが啜り泣く一方で、大人たちは感慨深げに人間の旅立ちを見送る。新たな長老となることが決まったニ=ベリも同様であり、人間らに感謝の祈りを送る一方で、その瞳は真剣さを帯びて大地を睨んでいる。これからのエルフの行く末に対して思いを馳せているようであった。
奇しくも後者については、立場こそ違えど、先頭を行くアリッサも同じ想いを抱えていた。王都はエルフの脅威について暫くは心配しなくてもいいだろう。ゆえにこれからは内政の時代であるが、それこそが問題の種を幾つも抱えているものであった。憲兵団の悪辣な活動や、兵の減少。『王女に対してどのような顔を見せて報告をすればいいのだろう』。答えの無い想いが頭をぐるぐると巡り、馬が荒々しく雪を踏みしめてもなおそれがアリッサの思考から離れることはなかった。
不安げに彼女の手が首元の指輪に向かい、触れる寸前にぴくりと止まって、下ろされる。前を向いた彼女の視界には、雪解け水によって湿った春の草原が広がっていた。
ーーこの数日後、タイガの森から離れた西の丘で、イル=フードの処刑が執り行われた。処刑人より有らん限りの罵倒を受けながら炎にかけられる寸前、彼は次のように呟いたという。「私はいつ、どこで間違ったのか」。
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