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王道を走れば:幻想にて
第五章、2の3:エルフとの離別
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下さい」

 チャイ=ギィが砂色の髪を揺らしながら近付いて一通の手紙をユミルに渡した。蝋で封をされたそれは宛先も書いておらず、ユミルは首を傾げた。

「これは一体?」
「二人で書いたものです。ケイタク様が戻られたら彼に渡して下さい」
「っ......あなた達はあいつがまだ生きているとお考えで?」
「あなたはそうではないのですか?パウリナさんから御話を窺いましたが、御二人はとても仲が良く、信頼し合っているとのことですが」
「口が軽いのも困りものですね。確かにあいつの事は信頼しています。しかし、もう三か月も音沙汰がないのです。自力であの霊峰を降りれたかも分からないし、それに大嵐があった。もし無事だったとしても......これ以上申し上げるのは」

 ユミルの回答に、チャイ=ギィは失望を露わとする。仲間に対して不誠実な態度ではないか、そう思ったのだろう。ユミルはそれに対して、心の中で反論する。
 狩人であった経験から、ユミルは大自然には深々と敬意を払いつつ、そしてそれがどのような脅威となって襲ってくるのかよく知っていた。原住民ですら慄いたというあの大嵐をたった一人で生き抜くなど夢想すらできない。悲しくも、堅実な彼の理性は慧卓の生還を半ば諦めている節があった。
 だが目の前のエルフはそれを否定している。一体何を根拠として、異世界の人間に可能性を抱いているのだろうか。その疑問に答えのはソ=ギィであった。
 
「私達は信じております。嵐に呑まれただけで倒れるような方ではありません。きっとどこかで戦っている。そして必ず、王都に帰還されるでしょう」
「......あいつの事を深く信じているのですね」
「ええ。深く、信じています」
「エルフは一度手を結んだ相手を決して忘れませんから。ゆえに、あの人の無事を最後まで信じ、そしてあなた達の未来に希望の光あれと、心よりお祈り申し上げます。この数か月の援助、決して忘れません」
「......手紙を確かに受け取りました。あなた達と同じように彼の帰還を、私は、いえ私達は信じ続けます。そしてこの大地で、あなた方には大変お世話になりました。王国を代表して御礼申し上げます。ではこれにて」
 
 ユミルは今度こそ、馬を進めていく。擦れ違う際、ソ=ギィが信頼を込めて見詰めてきたのに、ユミルは確りと頷きを返して厩舎を去っていく。その背中が見えなくなるまでギィ母娘は見送りを止めなかった。
 ユミルを最後として、ついに北嶺調停団の面々は森の入口に集った。傍を流れる川のせせらぎが雪を解かしては煌めき、小ぶりな雪山から可憐な黄色い花が顔を出していた。長らくこの森に留まって命を費やした彼等を見送らんと、多くのエルフーー疲労を隠せぬ老人らも、戦いの傷が癒えてない者もーーがはせ参じていた。王国を代表して、キーラが子供達から
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