第五章、2の3:エルフとの離別
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..人間を被験体にしていたって事か?」
「よくぞ鈍った脳味噌で正解に辿り着いたな。褒美として楽な姿勢に変えてやろう。少し揺れるが、吐くなよ?」
マティウスは机の側面を弄る。すると机は、まるで理容室を思わせるような形をした椅子へと変形する。膝と腰の部分が曲がって慧卓は明りの少ない室内を見渡せるようになった。
そこに何があるのかを見るよりも早く、マティウスが正面へと回り込む。何日も湯浴みをしてないだろう穢れた皮膚が僅かに愉悦を現しているのがつぶさに見えた。
「やぁ。目覚めの気分はどうだ」
「最悪だ。お前の顔を見たせいでもっと最悪になった。今ならステーキ食っても吐くね」
「お望みならそういう身体にしてやってもいいところだが、残念ながらそれができん。とても残念だ。最高の苦痛と苦悩を一時に味わえる機会は滅多に訪れんというのに」
「自分の身体でやってやれよ、陰険野郎。どうせそういう実験はお得意なんだろう?」
「自傷行為は好きでは無い。精神鍛錬の一環として組み込む輩もいるが、正直分からんな。痛みに慣れることがそのまま鍛錬に繋がるなど正気の沙汰だ。感性が獣以下になる」
「お前に言われたら形無しだよ、ケダモノ」
「では第二の質問だ。自分の恰好を見て、どんな感想が湧く?」
言葉に従うのも癪であるが、慧卓は自らの身体を改めて見遣り、大いに驚いた。衣服こそ農民が着るような簡素な麻のものであったが、さらけ出された両胸の間に宝玉の輝きがあるではないか。それは、王都を旅立つ前夜にコーデリアに贈った首飾りだ。あの時はその紫紺の煌めきが美しいものに見えたが、肉を食んで胸骨を抉るように外に出ている今の様には禍々しさを感じずにはいられない。
「......飾る場所を間違えてるだろ、これ」
「呑気よの。学問の権威として教えてやろう。
お前の胸に埋め込まれているのは『狂王の首飾り』だ。列記とした秘宝、それも他に比類なき力を秘めている。ヴォレンドの狂王が実際に身に着けていたものだ。文献によれば持っていると、膨大な魔力が授けられるとされている。
なぜお前がそれを填めているのか。簡単だ。お前の生に対する執着心......いや、お前に利用価値を見出したのだ。首飾りの方がな」
「俺の才能に惹かれた、とかは?」
「それはない。王都に会った際にお前からは微塵も資質が感じられなかった。つまり、お前が今持っている魔力はすべて首飾りが生み出しているものだ。異界の人間というのは魔術とは無縁らしいな。
狂王は即位に際して首飾りに大いなる意思を籠めて、完全なものに足らしめたのだ。魔力を生み出すだけの魔術具は自ら考え、自らの意思をもって所有者を操る狂気の道具となった。それには狂王の意思が宿っている。数百年の時を越えて、世に復活してすべてを支配するという狂王
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