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久遠の神話
第八十四話 運が持つものその七

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「それはいい」
「そうなのね」
「そうだ、今はな」
「コーヒーも紅茶もなのね」
「どちらも好きだがな」
「それでも今はなのね」
「飲みたくない時もある」
 如何に好きなものであろうとも、というのだ。
「だからだ」
「そうなのね、それで今は」
「仕事をしながらでいいか」
「ええ、構わないわ」
 それでだとだ、智子も普通に返す。
「それではね」
「話をはじめるか」
「ええ、今日だけれど」
「今日の十二時だな」
「場所はね」
「それは何処だ」
「神戸駅、新神戸駅よ」
 そこになるというのだ。
「それも線路のところよ」
「面白い場所になったのだな」
「場所はたまたまね、そこがね」
 そのだ、新神戸駅の線路がだというのだ。
「気が強い場所になっているからよ」
「今日は、か」
「ええ、気の強弱はその日によって変わるわ」
 そうした意味で気もまた生きているのだ。智子は中国の風水にも通じるこのことから権藤に対して話すのだった。
「だからね」
「今日はか」
「そこよ、そこに来てくれるわね」
「喜んでな」
「来てくれれば」
「私に幸運がもたされるか」
「今の貴方に唯一足りないものがね」
 まさにそれが、というのだ。
「授けられるわ」
「成程な、楽しみにさせてもらう」
「見たところ貴方は運は普通ね」
「しかし普通の運ではだな」
「宰相にはなれないわね」
「なれてもだ」
 例えだ、宰相になれたとしてもなのだ。権藤は宰相になってそれで終わりとは思っていないので今智子にもこう言うのだ。
「運がなければだ」
「最後まで果たせないわね」
「何度も言うが人がことを成し遂げるには運も大事だ」
 それもだというのだ。
「さもなければ途中で終わる」
「志半ばでね」
「貴女もそうした者を見てきたな」
「枚挙に暇がないわ」
 そうした者はとだ、智子は黒い柔らかいソファーにくつろいだ姿勢で座ったまま権藤に顔を向けて答えた。
「それこそね」
「そうだな、神話の頃からな」
「英雄も、最後は悲しい結末に至った者が多いわ」
「ヘラクレスもだな」
「あの英雄も、他の英雄達も」
 ギリシア神話を彩る彼等もだというのだ。
「その殆どがね」
「悲しい結末に至っているな」
「全う出来た人は僅かよ」
「志半ばでなくともだな」
「ええ、貴方は貴方の結末はどうでもいいみたいだけれど」
「首相のいる間に果たすことだけだ」
 己の果たしたいことを、というのだ。
「私はな」
「そうね、首相から降りれば」
「後はいい、私だけのことだ」
 そうなることだというのだ。
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