第3部:学祭2日目
最終話『交差譚詩曲(クロスバラード)』
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さん、しごとでがいこくにいくっておかーさんからきいたよ。おにーちゃとこれからくらせるってほんと?」
「……ああ……これからしばらく、母さんとお兄ちゃんと、いたるとで暮らすことになったのさ。」
「ホント? わーい! おにーちゃといっしょだー!!」いたるは喜んで、さらにぴょんぴょん跳びはね、「いっしょ! いっしょ!
おにーちゃーといっしょ! おふろもいっしょ! ねるときもいっしょ!
いっしょ!! いっしょ!!」
騒ぎはじめた。
「こらこらいたる、下の人に迷惑になるから、跳ねない跳ねない。お兄ちゃんもよかったと思ってるよ。いたると一緒になれて」いたるにつられて笑いながらも、彼は母を案じ、「ところで母さん、夜勤はどうするの?」
「そりゃ、あんなことがあったわけで……大丈夫、すぐ行くから」
すでにスーツ姿に着替え、バッグも用意してあるが、母の声は低かった。
すると、いたるがまばたきをした後、つっつと玄関の方へ行ってしまう。
「いたる、どうした?」
思わずリビングから声を上げる誠。
「あれー?」いたるは玄関に行った後、素っ頓狂な声を上げる。「きのうのおねーちゃ、どうしてここにいるのー?」
気になって玄関に急ぐと、そこには、学生服姿の平沢憂が。
「あれ、憂さん」
誠は思わず、声を上げた。
「……玄関開いていたから、ついつい入っちゃった……」
声に力がない憂。
「そう? 鍵はかけたと思ったんだけど……」
誠も言葉も、憂が鍵をこじ開けるための針金を持っていたことには気づかなかった。
「伊藤君……お姉ちゃんを振ったそうね」
チクリと、彼の胸が痛んだ。
無言で、うなずいた。
「お姉ちゃんがどれだけ、貴方のことを好きだったか、分かる? キスまでした仲なのに……」
相変わらず低い声で、厳かな表情で話しかけてくる憂。
「わかってたよ……」誠は唯の泣きじゃくる顔を思い出して、「俺が唯ちゃんに謝ってから、唯ちゃん、ずっと泣いてたし……。
でも、ここまで来て、やっとわかったことがあるんだ。
唯ちゃんは好きだけど、恋人とかいう思いではないんだ。
恋人として付き合いたいのは言葉だって……やっとわかった。」
憂は彼の言を聞いているのかいないのか、目を急に潤ませて、
「お姉ちゃんを泣かせるなんて……!!」
パンッ!
強烈な平手打ちが、誠の左頬を襲った。
母も、言葉も、いたるも唖然となる。
「伊藤君なんか嫌い……!!」潤んだ目でそこまでいってから、憂はぷいっと顔をそむけて、「でも、お姉ちゃん、これからもずっと、伊藤君を求めてくるでしょうから……拒まないでよね……」
「憂さん……」
張られた頬を、誠は抑えつつも、黙って憂のセリフを聞くしかない。
これだけ言って、彼女は踵を返し、外に出よう
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