第3部:学祭2日目
最終話『交差譚詩曲(クロスバラード)』
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「唯! 伊藤!!」
澪が休憩室に飛び込んだとき、彼女は思わず息をのんだ。
薄暗い部屋の中で、唯は鼻水と涙をぐずつかせながら、ベッドの上で制服の上着を着なおし、誠は気まずそうにちらちらとそれを見ている。
後からやってきた言葉と梓も、2人を見て体を固まらせた。
「……………!!」
こりゃ、してないと言っても信じてもらえないかな……。
上着を着る唯と、呆然としている3人を見て、誠はそう思った。
「ふぇぇぇん……。澪ちゃあん……」
ふらつきながら寄ってくる唯を、澪は思わず抱きしめる。
「唯……。伊藤とは、どうなったんだ?」
「振られちゃったよ……」唯は泣きじゃくりながら、「私は、マコちゃんに求めてほしかったのに……マコちゃんは桂さんのことが好きみたいで、裏切ることはできないし、それで桂さんに勝ったことにもならないって……」
「そうですか?」言葉は横からその様子を見ながら、誠の方へ向き直り、「誠君、魔が差したというのならば、すっぱり言っちゃってください。今更私、責める気は毛頭ないですから」
「ほんとか?」誠は少し胸のつかえが下りた感じで、「本当に、してないから。今となっては俺は、言葉しか見えてないから」
「誠君……」
「本当に、今までさんざ裏切ってしまって、ごめんな……」
誠の目は、真剣。
「……はい」
その目を見る言葉の目にも、曇りはない。信用しているようだ。
「ホントに?」低い声で梓が「怪しいものねえ」
「中野、本当だってば。」
誠はどうせ分かってもらえないだろうと、半分考えながらも、落ち着いて弁明する。
梓は相変わらずである。
澪は表情を消して、すすり泣く唯と、困惑する誠の様子をかわるがわる見る。
キョトンとする言葉、梓。
「本当……だよな。」
口を開く澪に、皆は目を瞬きさせる。
「秋山さん……」
思わず声を出す誠。
「今まで2年間、付き合ってたからわかる。
唯は見栄は張るけど、嘘はつかないから、大丈夫」
「そうですか……」
言いきる澪に対し、言葉はうなずく。
「いや、ミエとウソって同じようなもんだと思うけど……」
梓は思わず毒づいた。
「ぐすぐす……」
唯はひたすらに、泣き続ける。
初めての恋、そして、初めての失恋だった。
数分前―
近づく唇。
自分の鼓動と、興奮を隠しきれない唯の吐息。
だが……。
誠の中で、何かが崩れた感があった。
「……こんなこと……」
「……え……?」
「こんなこと、求めてほしくなかった……。唯ちゃんが、俺に……」
近づいた口から思わず目をそむけ、誠は目をつぶった。
「求めてほしく、ないって……?」
「唯ちゃんは、俺の中の唯ちゃんは、純粋で穢れないままでいてほしかったんだ。
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