第四章
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でホームを守る古田のミットに吸い込まれた。苫篠は驚愕した。だが彼もその足を知られた男である。そのまま突入し古田の鉄壁の防御を打ち砕かんとする。
両者は激突した。球場が一瞬静まり返った。
「セーフか?」
「それともアウトか?」
皆ホームに目を集中させる。主審の手がゆっくりと動きはじめる。
彼はその上げた手を次第に拳にしていく。そして突き上げた。
「アウト!」
彼は叫んだ。その瞬間神宮は再び歓声と悲鳴に包まれた。飯田のまさかのファインプレーであった。
このプレーが決め手となった。最後は高津がマウンドに上がり西武を退けた。一対零、かろうじて、だが確かに掴んだ勝利であった。これでヤクルトは王手をかけた。
時として野球は守備がものをいう。五九年のシリーズにおいて大沢の守備が杉浦を助け、七九年前期の近鉄の優勝が平野の執念のバックホームで決められたように。それを世に知らしめたのが他ならぬ西武であった。西武の強さはその絶対的な守備によるところも大きかったのだ。
その西武を驚かせた飯田の守備、それこそがヤクルトの成長の証であったのだ。
このシリーズ、西武にとってホームは遠かった。前年以上に苦しい戦いであった。
「これで後が無くなったな」
森は静かに呟いた。最早劣勢は明らかであった。
「だが負けるわけにはいかん」
森もまた一代の知将である。そう簡単に負けてはその名が廃る。そして彼はまだ自分のチームの力を、そして勝利を信じていた。
「見せてやる、うちの底力を」
西武はその土壇場での恐ろしいまでのしぶとさで知られていた。彼はそれを見せつけるつもりであった。
誰にか。野村やヤクルトナインにか。確かにそうである。だが彼等に対してだけではない。自分達を応援し、日本一を待ち望んでいるファンにも見せたかったのだ。
それがプロだ。勝ちファンと喜びを分かち合う。その為にも彼は諦めるわけにはいかなかった。
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