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剣の丘に花は咲く 
第十一章 追憶の二重奏
第三話 決心と決意
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うよりも……」
「?」

 士郎は首を捻る。カトレアはそれを横目で覗き込むと、両手で胸を抑えた。

「ただ……幸せなんです」
「……」
「シロウさんの傍にいると、胸の奥がぽっと火が灯ったように暖かくなって、すごく幸せな気持ちになるんです」
「……そう、か」

 後ろに手をつき、ギシリと音を立てながら天蓋を仰いだ士郎は、苦笑に近い笑みを浮かべ目を細めた。

「……だから」

 ベッドの上に置かれた士郎の手の上に自身の手を重ねたカトレアは、そっと身体を傾ける。肩と肩とが触れ合うのを感じ、カトレアは自身の身体の熱と鼓動の速度が早まるの自覚した。顔に血が上り、頬に熱が込もるのを感じながら、覚悟を決めるように目を瞑る。
 何も知らない幼い子供ではない。これから何が始まるのか、もう一度考える。熱と鼓動が更に早まるが、ここから逃げ出そうという気持ちにはならない。呼吸を意識して小さくする。不安と期待から荒れはじめた吐息の事を悟られるのが、何故だがとても恥ずかしい気がするから。
 重ねた手に力を込め、熱がこもった吐息を飲むと、意を決したように顔を上げる。
 自分を見下ろす士郎と視線が交わり、熱く濡れた吐息が微かに開いた口元から溢れた。溢れた吐息は流れ、士郎に触れる。

「……全く、ひどい男だな」 

 揺れる濡れた瞳を見つめながら、誰ともなく口の中で己を罵る。
 何時もの如く(・・・・・・)、断ることの出来ない己を侮蔑するように。
 相手の真剣な、純粋な想いに応えられる程大した己ではないことを自覚しているのに、どうしてか何時も断ることの出来ない己を。相手の想いが純粋であればある程、強ければ強い程その想いは強く自分の心を捕える。
 何故か……分かってしまう。
 何時からだ?
 自分に好意を寄せる女性(ひと)の想いを分かってしまうようになったのは……。
 知って、理解してしまえば、囚われてしまう。
 相手の想いに。
 そして、応えてしまう。
 自分にそんな価値がないと知りながらも。
 その想いに応えられるだけのものを渡せるものなど自分にないと知りながら……。
 それでも、応えてしまう。
 今もそうだ。
 聞かなくても、分かっていた。
 彼女が自分をどう思っているのか、どう感じているのかを……何を求めているのか……。
 最後の抵抗とばかりに問いかけたが、やはり駄目だった。
 違いはない。
 彼女の答えと、自分が感じていた彼女の想いは……。
 彼女に好意を持っているのは否定はしない。
 優しく、包み込むような雰囲気。穏やかな笑みに、魅力的な柔らかな曲線を描く身体。甘い華のような香り。優しく、しなやかな強さを持つ意思。
 強く惹かれるものを彼女は持っている。
 誰もが彼女を知れば、惹かれてしまうだろ
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