第十一章 追憶の二重奏
第三話 決心と決意
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屋に誘われた時、この部屋の中も動物園の如き様相を呈しているのだと思っていたのだが、
「なのに、ここにはいないと思ってな……」
部屋の中には一匹も動物の姿は見えなかった。それこそ猫の子一匹も……。
辺りを見渡す士郎を見つめるカトレアの口元には、小さな笑みが浮かんでいたが、それは口元を覆う右手によって隠されていた。
「皆には少しお願いをしていまして」
「……は?」
眉を曲げる士郎に向かって、カトレアはゆっくりと近づいていく。士郎の手を取ったカトレアはベッドに座ると、掴んだ手を引き寄せ士郎をベッドに誘った。引かれるままに任せベッドの上に座った士郎は、隣に腰を下ろしたカトレアに顔を向けた。
「……お願いって、何をだ?」
「そうですね……ちょっと時間かせ―――あ、その、ですね……ただちょっとシロウさんと二人っきりになりたくて……」
柔らかく笑みを浮かべ、小首を傾げるカトレアに、士郎は目を軽く見開かせる。反射的に開きかけた口を閉じると、膝に肘を当て立てた腕で俯かせた顔を支えた。
「あ〜……その、だなカトレ―――」
「ねえシロウさん」
顔を上げた士郎が開いた口を、カトレアの声が閉ざす。緩やかな弓を描く目から見つめられた士郎は、口にしようとした言葉を飲み込むと、視線でカトレアに先を促した。
「ありがとうございます。その、ですね」
士郎から話を促されたカトレアは、小さく首を縦に振り礼を告げると、少し言い淀みながらも小さく開いた口から疑問の声を上げた。
「先程は何をされていたんですか?」
「さっき?」
「はい。テラスで……」
「ああ、あの時か……」
頬を指でかきながら頭上を見上げる士郎。視界にはベッドの天蓋が映る。それを何とはなしに見上げながら、士郎はポツリと声をこぼした。
「少し……昔の事を思い出していてな」
「昔……ですか?」
「そう、昔……ここへ来る前のことを」
カトレアに促されるように、士郎は思い出す。
「家族の事を、な」
「家族ですか?」
身体をずらし士郎に近づいたカトレアは、ベッドに手を着いた士郎の手に自身の手を乗せた。
「どんな人たち何ですか、シロウさんの家族は?」
士郎の顔を下から覗き込みながらカトレアは問いかける。
「まあ、そうだな。一言で言うなら色々ととんでもない奴らだ」
「とんでもない……ですか? 二言で言うなら?」
「物凄く、とんでもない奴らだ」
「……三言でなら?」
「桁違いに、物凄く、とんでもない奴らだ」
「……く、苦労したんですね」
ヒクつきながらも、同情の声を上げたカトレアに、士郎は深く重々しく頷いてみせた。
「苦労という言葉が苦労ではなくなるくらいには……な」
「……
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