第十一章 追憶の二重奏
第三話 決心と決意
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……変わってないな。
天蓋付きのベッドの上に横になったルイズは、顔を覆うように置いた右手の隙間から部屋を見渡し、声に出すことなく小さく口の中で呟いた。十二メイル四方の大きな部屋。ベッドや机、本棚などの家具の他には、ぬいぐるみや木馬などのおもちゃが所狭しと置かれているそこは、魔法学院に入学するまでルイズが暮らしていた部屋であった。大人が数人横に並んで寝られるほど大きなベッドの上に一人寝転がりながら、ルイズは左手をベッドの端に伸ばし、転がっていた人形の一つを手にする。指先で掴んだ人形を引き寄せると、それを胸元に抱き寄せた。
「わたしは……少しは変わったのかな……?」
この部屋にいた頃は、何時も泣いていたような気がする。
欲しいと思った物は直ぐに手に入ったため、物質的な不満は感じたことはなかったが、代わりに全然自分の思い通りにならないものがあった。それは自分の魔法。どれだけ勉強しても少しも上達しない自分の魔法。口を開けば魔法の勉強とばかり言う母から受ける教育は厳しかったが、自分の魔法の実力は全く上がることはなく、それは呼び寄せた高名なメイジさえも匙を投げる程であった。それでも母は諦めることなく、自らわたしに魔法の勉強を教えていたが、それはまるで軍隊のように厳しく、勉強を終えた後は何時も一人この広い部屋の中で泣いていた。
母の厳しい教えと……何時までたってもまともに魔法を使えない自分に対する苛立ちに……。
「……変わったわよね」
顔を覆っていた右手を伸ばし、胸の上に抱き寄せた人形を両手で掴むと、顔の上に持ち上げる。
騎士をデフォルメしたその人形を見上げながら、ルイズは小さく溜め息を吐く。
「……っ……それとも……ただ、そう思いたいだけなのかな?」
今なら分かる気がする。
あの頃、母があれだけ厳しくわたしに魔法を勉強させた理由が。きっと母は、自分が信じる道を進んで行けるように、力をつけさせたかったのでは、と。
きちんと魔法が使えなければ嫁ぎ先がないと口にしていた母から教えを受けていた時は素直にそう思っていたけど、魔法学院へ行って……ううん……シロウと出会ってから色々な事を経験して……違うんじゃないかって思うようになった。
どんな道であっても、自分で何かを選ぶ時、力は必要になる。使うにしても使わないとしても、力はある方がないよりも選択肢は広がるから。そのことを母はよく知っていたのだろう。それもそうだ、なにせ母は父と結婚する前は、性別を隠しマンティコア隊の隊長をしていたのだ。一体どれだけの苦労や困難があったのか想像もできない。
小さい頃、この部屋に住んでいた時はそのことに気付かなかった。
違う。
住んでいたから気付けなかった。
ここから出て、たくさんの経験をして、様々な人と出会っ
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