糸流れ 史
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退屈は人を殺すとはよく言ったものだ。
何もすることがない時、感じる時間は酷くゆっくりに思える。新しくすることがなくただ決められたことを繰り返すルーチンワークの日々。
肉体は日々変わりなく動く。血を送り酸素を取り込み肉を動かし代謝をする。けれど心は動かない。凝り固まり代謝を失う。
生きた体に死んだ心。その乖離がどうしようもない時間のズレを生むのだろう。
何かをするのだと動き、澱んでいた頭を動かせばそのズレがなくなる。
体と心を同じ時を生き始めていく。
子供の相手をするようになってから時が流れ始めた。
それは現実としての時間でもあり、己の中の時間もまた同じ。
ただ生きているのは死んでいるのと同じ。目標や理想が有って生きているのだと言えると嘗て誰かが言っていた。
戯言だと流したその言葉。今なら耳を傾けてみるやもしれない。
死なぬだけの日々など、ただの時間の経過でしかない。
流れる川の水は常に生きた水を流し続ける。溜まり水はいずれ淀み腐り、その底に住まう者も息が出来ずに死に絶える。
水があるという事だけでは緩やかに死に絶える。流れるということはどんな形であれ、生きるための何かを取り入れていく。
少なくとも、外に出ようという気がなくなったのは。
どこかにある流れに身を投げようという気が無くなったのは、そういうことなのだろう。
あれから何ヶ月が経った。
子供は、レイフォンは相変わらず生意気だ。だがこちらの言葉に段々と耳を傾け始めるようにはなった。
扱い方は拙いながら分かってきた。菓子や玩具、或いは嘘で動かし、褒めて調子に乗らせる。
剄息の鍛錬も行い続けた。意識だけで動かすというのはまだ無理だがひと呼吸で剄を知覚しある程度動かせるようになった。
衝剄を教えるのはまだ先になる。だが活剄の基礎ならば直ぐにでも身に付けるだろう。
そしてこの数ヶ月を通し、いくつか分かったこともあった。
「ふ、ん!!」
掛け声とともに投げられた小さな球は目的とは見当違いの方へ飛ぶ。
それを見えぬ糸で絡め取り軌道を変え、己の手の中へ。
取った球をレイフォンに向け投げ返す。それは狙ったようにレイフォンの手元へと飛んでいく。
再度掛け声とともに投げられた球は、今度は弱すぎて飛距離が足りない。それをまた絡め取り、そして投げ返す。
「もっと自分の力を意識しろ。毎回力が変わっている」
「ぶー。ちゃんとやってるのに……」
「大雑把なんだよ。感覚を掴め。少なくとも飛距離は安定させろ」
何度も球が空を飛び、そして返される。
今やっているのはゴム球を使った活剄の簡単な訓練の一つだ。剄を腕に集中させ腕力を上げて球を投げさせる。
活剄なしの状態
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