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久遠の神話
第八十一話 バトルゲームその七

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「そんなことは」
「だから強くなって」
「戦ってね」
 そしてだというのだ。
「それで戦いを止めるよ」
「そう決めたからよね」
「うん」
「わかったわ、ただ自分の為に戦うってことだけれど」
 ここでだ、樹里は気付いて彼のことを話した。
「中田さんもかしら」
「中田さん?」
「そう、中田さんもね」
 出したのは彼の名前だった。
「そうなのかしら」
「あの人も戦いを続けてるけれど」
「そうよね、だったら」
 自分の為に戦っているのではないかというのだ、だが。
 樹里は自分で言ってからだ、首を捻って上城に話した。
「けれど中田さんってこの戦いが嫌みたいだし」
「うん、よくそんなことを漏らしてるよね」
「そう、それにね」
「自分の為に戦ってまで何かをしようっていう人でもないわよね」
「中田さんはそうした人じゃないと思うよ」
 上城もだ、中田についてはそう見ていた。
 それでだ、こう言ったのである。
「絶対にね」
「そうよね、じゃあ誰かの為に戦っているのかしら」
「そうじゃないかな、お金とか権力とか求める人でもないし」
「スペンサー大尉みたいに誰かから命令を受けているなんてことも」
「ないと思うよ」
 一介の大学生だ、それではそうしたことも特に考えられなかった。
「多分だけれど」
「そうよね、じゃあどうしてかっていうと」
「ご家族のことで危ないのかな」
「ご家族?」
「うん、ひょっとしたらね」
 そうではないかとだ、上城は言うのだ。
「前にちょっと中田さんにお聞きしたから」
「あの人一人暮らしよね」
「うん、けれどね」
 それでもだとだ、上城は話していく。
「ご家族が事故で入院されてるそうで」
「そういえばそんなことも」
 樹里もここでこのことを思い出して言った。
「聞いたかしら」
「そうよね、じゃあ」
「ううん、そのせいかな」
「何かあの人も色々ありそうね」
「そうだね、けれど最近中田さん妙に焦ってるのかな」
 そんな感じがしたのだ、今。
「若しかして」
「そうなの」
「そんな気もするね」
「ううん、焦ってるっていうと」
 それならとだ、樹里は考えそして言った。
「ご家族に何かあったのかしら」
「嫌な予感がしない?」
「そうね、若しかして」
 樹里は暗い顔で言う、しかし。
 それ以上は言わずにだ、こう言うのだった。
「言わない方がいいわね」
「言うと若しかしたらね」
「うん、現実のものになりそうよね」
 言霊である、二人は無意識のうちに言葉が持つ力を信じているからこそ今その言葉を出せば現実のものになってしまうと思ったのだ。
 それで今は言わなかった、樹里も上城も。
 二人は言葉を止めてだ、それでだった。
 その樹里からだ、上城に言った。
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