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魔導兵 人間編
誓い
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ちょこんと顔を出し、雪子の肩に寄り添ってきた。いきなりの出現に苛立った声を思わず出してしまった。出してしまってあっと口に手を当てた。恥ずかしい。勝手に入ってきたことは確かに腹立たしいが、決してこんなにはしたない声を出すつもりではなかった。さっきまで、母のことを回想していたこともあり、少し落ち着かない。
 我が子を驚かそうと後ろから顔を出した雪江は、娘のそんな行動をじっと見ていた。

「ゴメンなさい、お母様。私、今自分がとってもちっぽけな人間だって気がついたのです」
「ほう……さしずめ、魔術の勉強につまずいてしまった、というところか?」
「はい、今日、才能がないとはっきり言われてしまったんです」
「そうか――減棒だな」

 何やら物騒なことを口にしていた。それは、おそらくあの男を恐怖に淵に叩き込む必殺の一撃だろう。だが、それを母にやらせてしまったら自分のプライドが許しさない。何よりあの男が哀れだ。三人を養う貧乏亭主。雪子にだって良心くらいはある。

「お、お待ちくださいお母様。私、これでいいんだと思います、これで」

 何かがわかったような気がした。この一ヶ月、自分にとってプラスになったことと言えば、自分に対する慢心が改善されたということだ。今まであらゆる面に秀でていた自分が、魔術に関わることでは、底辺にも等しい。屈辱。そう雪子は生まれて始めて屈辱という言葉を使えた。もちろんそんな思いなどしたくはなかった。だが、この世に生きている人たちは日々様々な屈辱に耐えて生きている。それを知ることが出来ただけでも雪子は成長したような気がした。逆にここで知ることができなかったら、自分は社会に出て大変な目にあっていただろうと思う。
 雪子は人の負の感情を知ることが出来た。そして気が付いた。自分は、自分から相手のことを理解しようとしたことなど一度もなかった。

「……何か、一皮むけたような顔だな」
「ええ、魔術はまだ……ですけど、なんとなく」
「そうか……ふむふむ、そうか」

 雪江は我が子の成長を顔をほころばせながら喜んだ。手元にある魔道書をパラパラとめくりながらも、その思考は娘の方へと向かっている。が、次の瞬間持っていた魔道書に目を僅かに見開きブツブツと独り言を囁いていた。

「……光? ……なんだこれは? ……聖者の血。 ……馬鹿な」
「お母様……?」
「あ、ああ。うむ、可愛い我が娘よ、よくぞ成長した。そうだな、霧島には報告も兼ねて明日学園長室に来いと言っておいてくれ……」
「? わかりました。お休みなさいお母様」
「ああ、お休み……」

 雪子は再び魔道書へとのめり込んだ。これは意地である。天才と言われた自分に与えられた試練。認めたくはないが、どうやら自分は『落ちこぼれ』という奴らしい。だからといって特にライバルがい
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